第4章 文化財の保存・活用の方向性と本計画で目指す姿 文化財は、これまでの長い歴史の中で、生まれ、育まれ、今に伝えられてきた市民共有の財産です。また、日本や地域の 歴史文化を正しく理解するために欠くことができないものであり、将来の文化の向上発展の基礎となります。本章では、 横浜の歴史文化を次世代に継承していくため、文化財の保存・活用の基本的な考え方と方向性、本計画を進める際の 「目指す姿」を設定し、目指す姿の実現に向けた課題を整理します。 1節 文化財の保存・活用の方向性 1 「保存」と「活用」の基本的な考え方 文化財保護法では、その目的を「文化財を保存し,且つ,その活用を図り,もつて国民の文化的向上に資するとともに, 世界文化の進歩に貢献すること」(第1条)と規定しており、保存と活用はともに文化財保護を図る上での重要な柱です。 文化財は、損傷や改変により価値を喪失しやすく、一度失われた価値を取り戻すことは非常に困難であるため、文化財の 特性についての正しい認識のもとに、適切な取扱いが必要である一方で、社会の中で適切に活用されることでその継承が 図られる文化財もあり、文化財の「保存」と「活用」は、ともに、次世代に継承するために必要なものです。 2 「保存」と「活用」の方向性 本市には、多種多様な文化財が市域にわたり所在しており、それぞれの価値に応じて適切に保存するとともに、その特性 に応じた活用を進め、「保存」と「活用」の均衡を図りながら、取組を進めていきます。 また、「適切に保存し継承されていることで展示や公開等の活用ができる」、「活用を通じて認知度が高まることで、 文化財への理解が深まり、参画者が増え、引き続き保存し継承される」といったように、「保存」と「活用」の循環を実現 していきます。 取組にあたっては、文化財の所有者をはじめ、市民、関係団体、民間企業等がともに課題を共有しながら連携して取り組む とともに、文化財を通じた学びや体験する機会の創出、地域への愛着醸成、新たなまちの魅力の発見、良好な景観形成など の効果を生み出しながら、文化財の保存と活用の取組を持続的に行っていきます。 図4-1 本市における保存・活用のイメージ 2節 本計画で目指す3つの姿 本計画では、「まもる」、「いかす」、「つながる」の3つの姿を共有しながら取組を進め、多様な主体がともに連携しながら、 横浜の歴史文化を次世代に継承していきます。 「まもる」は、横浜の歴史文化が市民に受け継がれ、大切に守られている姿、「いかす」は、多様な主体により、様々な視点で 文化財が生かされている姿、「つながる」は、文化財を核として、多様なコミュニティやつながりが生まれている姿とします。 図4-2 目指す姿 まもる 横浜の歴史文化が市民に受け継がれ、大切に守られている姿 いかす 多様な主体により、様々な視点で文化財が生かされている姿 つながる 文化財を核として、多様なコミュニティやつながりが生まれている姿 によって、横浜の歴史文化の次世代への継承 3節 文化財の保存・活用に関するこれまでの取組 1 調査に関する取組 文化財調査 横浜市における文化財調査は、市内有識者を中心に構成された「横浜市文化財研究調査会」(1962(昭和37)年設立)による調査 が始まりです。調査範囲は寺院・神社、旧家所蔵の文書から庚申塔こうしんとうまで幅広く、その成果は、『横浜市文化財調査 報告書』として刊行されました。 1969(昭和44)年に、文化財保護措置要綱が施行され、横浜市教育委員会社会教育課に文化財係が新設された後、1975(昭和50) 年に結成された「横浜市文化財現況調査団」は、市内に所在する文化財の現況把握のための総合調査を行い、その成果を、 『横浜の文化財 横浜市文化財綜合調査概報 』(1977(昭和52)年初刊。一巻から五巻)として刊行しました。 その後、1984(昭和59)年に、「横浜市文化財研究調査会」と「横浜市文化財現況調査団」が統合し、「横浜市文化財総合調査会」 による調査が継続して行われますが、市域の悉皆調査が概ね完了したことから、活動を終了しました。現在は、横浜市文化財保護 審議会を中心とした調査・研究が行われ、その成果を『横浜の文化財.横浜市文化財調査概報.』として刊行しています。また、 市内に所在する文化財の現状や管理状況を把握するため、「横浜市文化財巡回調査」も実施しています。 その他、民俗、近代建築や土木遺産、民家等の分野別の調査も行われており、それらの調査は、文化財保護業務を所管する本市 教育委員会事務局生涯学習文化財課のみならず、歴史を生かしたまちづくりを所管する都市整備局都市デザイン室や、横浜市歴史的 資産調査会等の関係団体によっても行われています。文化庁や神奈川県による文化財調査も行われており、 2016(平成28)年から 2018(平成30)年にかけては、主として20世紀に造られた建造物について調査し、所在地、建設年、規模、構造、現状などを集約 する「近現代建造物緊急重点調査(建築)」(文化庁)が実施されました。 【資料編5】既存調査一覧 埋蔵文化財調査 埋蔵文化財の調査は、大きく「学術調査」と「記録保存調査」または「緊急調査」に分けられます。 学術調査は、学術的な研究や遺跡の活用を第一の目的として、考古学的な資料の充実を図ることを目的としたものです。一方、 記録保存調査または緊急調査は、土木工事等を前提としたもので、工事等により埋蔵文化財が破壊されるために、その工事着手前 に適切に記録保存を行うものです。 明治30年代に発見され、「屏風ヶ浦岡村貝塚」の名称で注目されていた三殿台遺跡では、その後、隣接する市立岡村小学校の校地 拡張予定地となったため、 1961(昭和36)年に、多くの研究者や中・高・大学生、市民ら延べ5,000人が参加して、遺跡全体の発掘調査が 行われました。調査の結果、縄文・弥生・古墳時代の大岡川流域のムラの様子や生活がわかる重要な遺跡として、1966(昭和41)年 に国指定史跡となり、翌年には三殿台考古館が開館し、遺跡とともに公開されています。 また、港北ニュータウンの造成工事の本格化に伴い、1970(昭和45)年に、「港北ニュータウン埋蔵文化財調査団」を結成し、 発掘調査を実施しました。約20年に及ぶ調査となり、縄文時代の三の丸遺跡や弥生時代の大塚・歳勝土遺跡をはじめとする多数の 遺跡が明らかになるとともに、大塚・歳勝土遺跡は可能な限りの範囲で現状保存され、1986(昭和61)年に国の史跡に指定されました。 これらの調査の進展とともに、市民から考古資料館及び歴史博物館設立の要望が高まり、 1995(平成7)年に「横浜市歴史博物館」 を開館しました。 現在、埋蔵文化財発掘の届出及び通知の件数は、年間1,090件(2022(令和4)年度)にのぼり、届出者との協議等により埋蔵文化財 の保存に努めていますが、工事等によって埋蔵文化財の破壊が免れない場合には、工事主体者の理解と協力のもと、発掘調査による 記録保存を行っています。これらの調査成果は、発掘調査報告書として刊行されています。 市史編纂事業 本市では、1954(昭和29)年に横浜開港100年を記念して、第一期『横浜市史』の編集に取り組みました。原始・古代.関東大震災の 復興期(昭和初期)までを対象とし、編集に際し収集した資料を公開する施設として、1981(昭和56)年に「横浜開港資料館」 を開館しました。 1985(昭和60)年には、市政100周年・開港130周年を記念して、第二期『横浜市史』の編集に取り組みました。昭和初期.高度成長期 までを対象とし、収集した資料は、横浜市史資料室が所蔵する横浜市の歴史的公文書とともに、市民の利用に供しています。 2 制度による保護の取組 無形民俗文化財保護団体の育成(1977(昭和52)年から) 本市では、文化財保護条例が制定される前の1977(昭和52)年から、市内に伝わる民俗芸能のうち、地域に結び付いた特色のある 民俗芸能を選び、これらの保存団体を育成する事業を進めてきました。 現在、横浜市無形民俗文化財保護団体育成要領に基づき、地域に結び付きのある民俗芸能を継承し、後継者育成等の保存継承に 熱意のある市内の無形民俗文化財保護団体を「認定団体」に選定し、保存継承に必要な経費の一部補助等を行っています。 横浜市文化財保護条例と歴史を生かしたまちづくり要綱(1988(昭和63)年から) 本市では、横浜市文化財保護条例と歴史を生かしたまちづくり要綱を同日施行し、文化財としての「保護(保存・活用)」と、 歴史的建造物を活用しながらまもる「保全活用」の両輪体制を構築し、相互に補完しながら、それらの保護を進めています。 文化財保護条例に基づく文化財の保護 文化財保護を所管する教育委員会(生涯学習文化財課)では、文化財保護条例に基づき、歴史上、学術上等の価値を有する文化財 を指定するほか、地域住民が守ってきたもの及び地域を知る上で必要な文化財を、緩やかな基準で幅広く保護する登録制度を導入 しています。指定等文化財の所有者や管理団体に対する管理奨励金や保存修理、防災に関する補助金等を交付するほか、文化財 保存修理に関する相談対応、防火訓練等を通じた出火防止対策や出火時の初期対応の指導等を行っています。 歴史を生かしたまちづくり要綱に基づく歴史的建造物の保全活用 歴史を生かしたまちづくりを所管する都市整備局(都市デザイン室)では、開港以来の近代建築や西洋館、土木遺産、郊外部に 残る農村の風情を伝える古民家や社寺など、市内に残る歴史的建造物を再評価し、まちづくりの資源として位置付け、その保全 と活用を積極的に図っていくため、1988(昭和63)年に「歴史を生かしたまちづくり要綱」を施行しました。所有者の協力を得て、 主に建築物の外観を保全しながら活用を図ることを目的としており、要綱に基づいて「登録」、「認定」を進めています。 認定を受けた歴史的建造物については、外観の保全改修や維持管理等に対して助成を行っています。 景観制度(2006(平成18)年から) 良好な景観の形成を進めるため、景観法に基づく「横浜市景観計画」を策定し、景観条例に基づく「都市景観協議地区」内では、 建築物や工作物の新設、改築、外観の変更等を行う場合は、協議が必要である旨を定めています。また、上記のような景観制度に 基づき、山手地区の歴史・異国情緒を感じる景観や樹木・緑の保全(山手地区都市景観協議地区)や、日本大通りのイチョウ並木 の保護(景観重要樹木)等が制度化され、歴史的な景観を大切にした魅力ある都市景観の形成に取り組んでいます。また、2013 (平成25)年に景観条例の一部を改正し、「特定景観形成歴史的建造物制度」を新設し、歴史的景観の魅力を生かした、 文化・観光施設や飲食店など都市の魅力向上や活力創出に資する施設への利活用を推進しています。 3 文化財の活用に関する取組 歴史文化に関する普及啓発・理解促進 教育委員会では、時代領域の異なる博物館5施設(横浜市歴史博物館、横浜開港資料館、横浜都市発展記念館、横浜ユーラシア文化館、 横浜市三殿台考古館)、八聖殿郷土資料館や埋蔵文化財センター、称名寺境内や稲荷前古墳群等の史跡などの管理・運営等を通じて、 市民が横浜の歴史文化を学び、触れる機会を創出しています。 また、「市史資料室」や「横浜みなと博物館」のほか、民間の博物館においても、各施設が所蔵する歴史資料等を活用し、横浜の歴史 文化に関する普及啓発等を行っています。各地にある説明板や由来板も、その文化財や歴史を伝えるツールの1つです。 市内では、市民が各地域の魅力や歴史を伝える取組も行われています。例えば、市歴史博物館での市民ボランティアによる展示解説、 市民ボランティアガイドによる地域の歴史的変遷や見どころ等の案内、市民講師による講座の開催など、市民が主体となって、 地域の歴史を伝える活動も行われています。 歴史的建造物の公園内での公開 市が所有する古民家や西洋館などの歴史的建造物を、NPO法人や民間企業等の活力を活用しながら、公園内で広く市民に公開して います。各施設では、主に指定管理者制度によって管理・運営するとともに、季節に応じたイベントなどを通じて、市民や来場者が 親しむ機会を提供しています。 文化芸術創造都市施策 2000年代前半当時、都心臨海部では、歴史的建造物が少しずつ姿を消し、オフィスビルの空室率が上昇するなど、都市の活力が失われ つつありました。これに対して、横浜市では、文化芸術振興や産業振興施策(ソフト)とまちづくり施策(ハード)を融合した一体的 な施策として「文化芸術創造都市施策」を導入しました。 開港当時の歴史を今に伝える西洋建築・近代建築などの歴史的建造物や公共空間を、アーティスト・クリエイターの活動の場として 活用する等、創造性を生かしたまちづくりによって、文化・経済の両面で都市の活力を生み出し、国内外から選ばれる都市として持続的に 発展していくことを目指し取組を進めています。 横浜港に関する文化財の活用、賑わい創出 横浜の最大の観光資源である港をより質の高い魅力的な空間とするため、文化財や特徴のある景観を活用したウォーターフロントの形成 を進めるとともに、客船の寄港促進に努め、賑わいと国際性あふれる横浜港の形成に取り組んでいます。みなとみらい21中央地区と 中華街・山下地区を結ぶ中間点に位置する臨海部では、横浜港に関する文化財を賑わい創出の要素の1つとして活用し、水際線沿いを歩く 人々の流れをつくり、両地区の結節点となるとともに、人々の快適な憩いの場、交流の場となっています。 4節 目指す姿の実現に向けた課題 文化財の保存・活用に関する取組は、行政のみならず、多様な主体によって行われてきましたが、高齢化、自然災害の発生、感染症拡大 などの社会状況の変化によって、人材不足や資金不足、活動の機会の減少など、様々な課題が取組の中で生じています。 本節では、本計画で目指す3つの姿の実現にあたっての課題を整理しました。 1 「まもる」に関する課題 課題1:文化財に関する継続的な把握調査と追加調査の実施が必要 市域の文化財に関する把握調査が概ね完了してから30年以上経過しており、経年劣化や維持管理の人手不足等の社会状況の変化をふまえ、 過去の調査対象に関する現状確認や追加調査を継続的に行う必要があります。特に無形の民俗文化財は、人から人へ伝えられるという性質上、 高齢化や感染症拡大に伴う活動の機会の減少等により、継承が困難になる状況も生じており、現状の確認や対策の検討の必要性が高まっています。 また、無形文化財や記念物等の類型や、戦後の歴史的建造物や近代の遺跡(おおむね幕末開港期から第二次世界大戦終結頃までの遺跡。 軍事に関する遺跡を含む)等、これまで調査が十分に行われていない分野の調査や、これまで様々な主体による調査で把握された文化財の 整理を進め、必要に応じて追加調査を実施するなど、未指定文化財の把握も継続して進める必要があります。 表4-1 類型ごとの調査実施状況 有形文化財 建造物  一般建造物  調査が進んでいる 石造建造物 調査が進んでいる 美術工芸品 絵画 調査が進んでいる 彫刻 調査が進んでいる 工芸品 調査が進んでいる 書跡・典籍 調査が進んでいる 古文書  調査が進んでいる 考古資料 調査が進んでいる 歴史資料 調査が進んでいる 無形文化財 (演劇・音楽・工芸技術等)調査を行っていない 民俗文化財   有形の民俗文化財 調査が進んでいる 無形の民俗文化財 調査が進んでいる 記念物 遺跡(史跡) 調査が進んでいない 名勝地(名勝) 調査が進んでいない 動物・植物・地質鉱物(天然記念物) 調査が進んでいない 文化的景観 調査を行っていない 伝統的建造物群 調査が進んでいない 課題2:埋蔵文化財の調査の継続的な実施が必要 埋蔵文化財は地中に埋没した状態にあることから、その範囲や内容の全てが把握されているわけではなく、既に周知されている埋蔵文化財包蔵地 でも、その範囲や内容が明確でないことがあります。 発掘調査によって出土した、当時の建物の跡などの遺構や、当時の生活状況を明らかにする石器や土器などの遺物は、本市の歴史文化を解明する 上で重要な資料となります。開発等により、未記録のまま破壊されないよう、適切な埋蔵文化財の取扱いを進めるとともに、過去に実施した発掘 調査の出土品や調査報告書の整理・刊行、新たな学術調査にも取り組み、横浜市の歴史文化を後世に継承していく必要があります。 課題3:適切な保存のための文化財所有者や管理者に対する支援が必要 指定等文化財については、日常管理に対する管理奨励金を交付するほか、保存修理、防犯設備や防災施設の整備、公開等に対する補助金を交付 していますが、これらの補助制度は経費の一部を補助するもので、所有者が費用を負担できないと、日常の維持管理や適切な修繕等を行うこと は難しくなります。 2020(令和2)年度に実施した、指定等文化財の所有者・管理者向けのアンケート調査では、アンケートに回答した所有者・管理者のうち、 35.9%は「保管や修理等に要する費用負担」について、25.6%は「日常の維持管理」について困っていると回答しました。 所有者・管理者の状況を定期的に把握し、必要に応じて、補助金制度の見直しや、民間の補助金制度の情報提供、修繕への技術的支援、 活用に関する相談等の支援のほか、各文化財の保存・活用の方針や基準等を定めた保存活用計画の作成も必要です。 図4-3 所有又は管理されている文化財の保存・活用にあたって、困っていること(複数回答,n=117) 出典:文化財所有・管理者向けアンケート(令和2年度) 日常の維持管理 25.6% 保管する場所の確保 6.8% 保管や朱里等に要する費用負担 35.9% 修理等を行うための施工者や資材の確保 6.0% 現状等の手続き、制約 4.3% 保存・活用に必要な知見がない 4.3% 将来的な担い手の不在 10.3% 将来継承する際の相続税負担 2.6% 見学や貸出等の希望への対応 3.4% 行政等の支援についての情報がない 6.0% 文化財が所在不明になった 0.0% 特にない 36.8% その他 7.7% 無回答者 7.7% 課題4:火災、風水害等に対する防災対策が必要 2019(令和元)年、パリ・ノートルダム大聖堂や沖縄・首里城が火災による甚大な被害を受け、文化財の防火対策への関心が高まりました。 また、台風による風水害等、自然災害による文化財への被害も発生しています。 本市においても、集中豪雨や猛暑等、近年頻発する気候変動の影響が顕著になっており、風水害による被害や、倒木や落石等の被害も報告 されています。気候変動の影響に対応し、被害を最小化・回避するため、適応策を推進していくことは喫緊の課題となっており、文化財の 保存・活用においても、それらをふまえて自然災害に備えておく必要があります。 本市では、文化財を火災等の災害から守るため、毎年1月の文化財防火デーを中心に、文化財関係者による通報、初期消火、避難誘導などの 訓練や、消防隊・消防団による放水訓練等を実施するほか、市指定有形文化財の収蔵庫や放水銃等の防災施設設置に対する相談対応や補助金 交付を行っています。 これらの取組を継続して行うとともに、所有者等が対策を講じているかの実態把握や、発災時に適切に対応できるような支援も必要です。 また、本市が管理団体となっている史跡・名勝等で土砂災害特別警戒区域となっている崖が約40か所あり、それらの対策を計画的に実施 していく必要があります。 表4-2 横浜市の住家被害及び非住家被害の件数 出典:「横浜の災害」 年度 住家被害 非住家被害 2017(平成29)年度 36 23 2018(平成30)年度 520 94 2019(令和元)年度 2,570 850 2020(令和2)年度 1 0 2021(令和3)年度 7 4 2022(令和4)年度 3 0 ※住家:現実に居住のために使用している建築物、非住家:住家以外の建築物 課題5:文化財の適切な保管・管理が必要 文化財を適切に保存し、次世代に継承していくためには、それらを保管する場所、スペースが必要です。また、文化財の特性に応じて、 温湿度管理や、防虫・防カビなど適切な保管環境を整えることも不可欠です。 教育委員会が所管する、横浜市歴史博物館、横浜開港資料館、横浜都市発展記念館・横浜ユーラシア文化館、横浜市三殿台考古館が所蔵 する資料は約57万点に上り、今後の資料収集・調査研究等により所蔵資料の増加が見込まれています。資料の増加にともない、適切な管理 に向けた整理スペースの確保も必要となっています。 また、市内の発掘調査による出土品等を保管する埋蔵文化財センターは、開発に伴い増加し続ける出土品の保管場所が不足している状況が 続いており、保管場所の確保が喫緊の課題です。 2 「いかす」に関する課題 課題6:文化財への理解の促進と価値に配慮した活用が必要 文化財を、様々な視点で生かしていくためには、文化財の公開や普及啓発をはじめ、生涯学習、学校教育、地域活動、まちづくりや観光 など、多様な分野において活用が図られていくことが重要です。加えて、文化財の本質的な価値を生かし、活用によってその価値を損なう ことのないよう、その特性に応じた活用を進めることが必要です。例えば、宗教活動の場である社寺や個人所有の文化財は、宗教的な空間や 環境への配慮、所有者の個人情報の保護などへの十分な配慮が求められています。このような文化財の特性に配慮するためには、文化財の 調査等によってその価値を明らかにするとともに、説明板等を通じて市民に対して情報を発信し、文化財への理解促進を図る必要があります。 課題7:文化財に触れ、親しみを感じる機会の創出が必要 これまでは、個々の文化財を調査・把握、指定・登録等を行いながら、各分野で理解促進・普及啓発、公開を進めることで、学びや地域活動 の活性化、歴史を生かしたまちづくりや賑わい創出にも寄与してきました。しかし、これらの取組は個々の文化財、いわゆる「点」としての 保存・活用が中心となっていました。 本市の文化財や歴史文化の価値・魅力をさらに高めるには、複数の文化財を関連付けて一体的に捉え、共通のテーマやストーリーとともに 保存・活用に取り組むことで、横浜の歴史文化をより一層わかりやすく伝えるなど、多くの市民や来訪者が文化財に触れ、親しみを感じる 機会を創出していくことが必要です。 3 「つながる」に関する課題 課題8:情報発信の充実が必要 現在は、文化財の情報が個々に記録・管理されている事例も多く、文化財に関する情報の集約・発信も進んでいないのが現状です。 文化財の保存・活用に様々な主体が参加し、連携できる体制を構築するためには、文化財に関する情報、保存・活用の課題や取組等が可視化 され、それらの情報に、アクセスしやすい環境となっている必要があります。また、広報媒体や各種SNS等の活用や、計画的な発信等に より、それらの情報を国内外問わず効果的に発信していくことも必要です。 課題9:新たな担い手や守り手の創出が必要 昨今の全国的な傾向と同様、本市においても少子高齢化が進んでいます。それに伴い、文化財の所有者を中心とした守り手、継承を支えてきた 担い手の高齢化も進み、後継者不足につながると、文化財を次世代に継承することが難しくなります。 特に、神楽やお囃子、祭事等の無形の民俗文化財は、人から人へと伝えられる性質上、後継者不足は継承に大きな影響を与えます。 建造物や美術工芸品などの有形文化財でも、維持管理の負担や、後継の所有者がいないことにより、継承が困難になるケースもあります。 所有者や管理団体といった特定の主体だけで文化財を保存・活用していくことは困難な場合もあるため、今後は、地域社会で課題を共有しながら、 多様な主体の連携や子どもから大人まで幅広い世代の参画、新たな担い手・守り手の創出が必要です。 課題10:文化財の保存・活用に関する相互連携・協力体制の整備が必要 文化財の保存・活用に関する取組は、行政や所有者のみならず、市民、関係団体、専門機関、民間企業等によって行われてきましたが、 活動している主体やその取組内容の実態把握、活動主体が相互に連携する体制は十分に整っていません。 これまで取組を行ってきた様々な主体が、それぞれの強みを生かし連携するとともに、新たな主体が参画しやすい環境づくり、協働の体制づくり が不可欠です。