【表紙】 第2期横浜市自殺対策計画(素案) 令和6年度〜令和10年度 【目次】 第1章、計画策定の趣旨…1ページ 1、計画策定の趣旨…2ページ 2、計画の位置づけ…3ページ 3、計画の期間…4ページ 4、自殺対策の推進体制…5ページ 5、計画の進行管理…6ページ 第2章、横浜市の現状と課題…7ページ 1、自殺対策の課題整理の方法…8ページ 2、横浜市における自殺の状況…9ページ 3、調査結果から見た横浜市の現状…24ページ 4、第1期横浜市自殺対策計画の振り返り…48ページ 5、第2期横浜市自殺対策計画策定におけるポイント…51ページ 第3章、横浜市の自殺対策における基本認識と取組の方向性…55ページ 1、基本認識と施策体系…56ページ 2、施策体系に沿った具体的な取組…60ページ 3、数値目標等…68ページ 【1ページ】 第1章、計画策定の趣旨 【2ページ】 1、計画策定の趣旨  我が国の自殺者数は、人口動態統計によると、平成10年に31,755人となり、前年と比較して8,261人の大幅な増加となりました。その後も、3万人前後で推移し、平成15年には32,109人となりました。  このような状況を受け、国は平成18年に「自殺対策基本法」を制定するとともに、翌平成19年には国の自殺対策の指針となる「自殺総合対策大綱」を制定しました。国を挙げて自殺対策が総合的に推進された結果、自殺が広く社会の問題として認識されていき、自殺者数は平成22年に3万人を下回り、以降、減少傾向に転じました。 誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現に向けて、自殺対策を一層効果的に推進するために、国は自殺対策基本法を平成28年に改正しました。それにより、すべての都道府県・市町村が自殺対策計画を策定することが義務付けられました。また、平成29年には自殺総合対策大綱も見直され、地域レベルの実践的な取組の推進や、子ども・若者・勤務問題に対する自殺対策の更なる推進が新たに加えられました。これらの取組の結果、自殺者数は減少し、令和元年には年間自殺者数が19,425人にまで減少しました。  しかし、令和2年には自殺者数が11年ぶりに増加に転じ、前年と比較して818人増加の20,243人となりました。また、令和3年は概ね横這いで推移し20,291人となっています。男女別の内訳をみると、男性は減少傾向にある一方で、女性が増加傾向にあります。この背景として、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等により、経済・生活問題や勤務問題等の自殺の要因になりかねない問題が悪化したことなどが指摘されています。  このような状況において、国は、自殺総合対策大綱を令和4年に見直しました。子ども・若者の自殺対策の更なる推進や、女性に対する支援の強化、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえた対策の推進のほか、社会全体の自殺リスクを低下させるための相談体制の充実、相談窓口や情報のわかりやすい発信、居場所づくりの推進、職場におけるメンタルヘルス対策の推進や長時間労働の是正等、幅広い総合的な対策を打ち出しています。  また、令和5年4月に開設されたこども家庭庁においては、令和5年6月に「こどもの自殺対策緊急強化プラン」が示され、こどもの自殺の要因分析や、自殺リスクの早期発見、電話・SNS等を活用した相談体制の整備のほか、遺されたこどもへの支援等の取組を進めていくことが示されました。  加えて、令和6年4月に「孤独・孤立対策推進法」や「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が施行されます。  一方、本市においても、平成14年以降自殺対策の強化を進め、平成31年に第1期横浜市自殺対策計画を策定しました。各種の統計データの解析結果等に基づきながら、地域におけるネットワークの強化、ゲートキーパー の養成、普及啓発の推進、遺族支援、相談支援体制の強化を行ってきました。この度、本市の過去の取組の成果や課題を踏まえながら、国の新しい制度の動向や、新型コロナウイルス感染症等により顕在化した心理的・社会的な課題を考慮に入れ、更なる自殺対策の推進を図ることを目的として、「第2期横浜市自殺対策計画」を策定することとしました。 脚注:ゲートキーパーとは、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人のことです。 【3ページ】 2、計画の位置づけ 2−(1)法制度や他の計画等との関係  本計画は、平成28年に改正された自殺対策基本法第13条第2項に定める「市町村自殺対策計画」として策定するものです。  また、「横浜市中期計画」では、政策14「暮らしと自立の支援」において、「困難を抱えた人を早期に適切な支援につなげることで、誰もが自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指します」と掲げており、令和6年に自殺死亡率を11.3とすることを目標にしています。  その他にも、よこはま保健医療プラン、横浜市依存症対策地域支援計画、横浜市男女共同参画行動計画、地域福祉保健計画、横浜市子ども・子育て支援事業計画等の計画とも整合性を図りながら、計画を策定しています。加えて、横浜市人権施策基本指針や横浜市生活困窮者自立支援制度業務推進指針等の指針とも整合性を図っています。関連計画・関係部局と連携を図り、分野横断的な視点から自殺対策を推進することで、総合的な施策展開を進めることとしています。 図表1−1:他の計画等との関係を示しています。 【4ページ】 2−(2)SDGs との関係  SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の17の目標は、世界の都市に共通した普遍的な課題であり、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、環境・経済・社会の三側面の統合的取組に重点が置かれ、地方自治体も含んだ幅広い関係者の連携が重視されています。  本市では、国から選定を受けた「SDGs未来都市」として、あらゆる施策においてSDGsを意識して取り組み、環境・経済・社会的課題の統合的解決を図ることで、新たな価値やにぎわいを創出し続ける持続可能な都市を目指しています。  このような本市のSDGs に関する位置づけや各種取組状況等を踏まえ、SDGsの17の目標のうち、「1、貧困をなくそう」「3、すべての人に健康と福祉を」「4、質の高い教育をみんなに」「5、ジェンダー平等を実現しよう」「8、働きがいも経済成長も」「10、人や国の不平等をなくそう」「11、住み続けられるまちづくりを」「16、平和と公正をすべての人に」の8つの目標の達成に本計画が寄与することを念頭に置きながら、施策の検討や具体的な取組を進めていくこととします。 図表1−2:SDGsの17の目標を示しています。 3、計画の期間  本計画の期間は、令和6年度から令和10年度までの5年間とします。  国の自殺総合対策大綱が概ね5年に一度を目安として見直されていることから、国の動きや自殺の実態、社会状況の変化等を踏まえ、本計画も5年に一度、内容を見直し改定します。 【5ページ】 4、自殺対策の推進体制  自殺対策は、家庭、学校、職場、地域など社会全般に深く関係しているため、総合的な自殺対策を推進するためには、地域の多様な関係者が連携・協力することが重要です。  本市では、「よこはま自殺対策ネットワーク協議会」において、情報共有や連携強化、また関係機関同士の協働等により、自殺対策の推進を図っています。  また、「横浜市庁内自殺対策連絡会議」において、計画の進捗状況や課題を共有し、より効果的な事業推進や連携を図っています。 図表1−3:自殺対策の推進体制を示しています。 【6ページ】 5、計画の進行管理  自殺総合対策大綱では、地域レベルの実践的な取組をPDCAサイクルの考えのもと推進することが掲げられています。これにより、国と市町村とが協力しながら、PDCAサイクルを通じて、自殺対策を常に進化させながら推進していくことが求められています。  また、「横浜市中期計画」においては、データに基づくPDCAサイクルを基盤としてマネジメントサイクルを確立していくことが掲げられています。  以上を踏まえ、本計画の進行管理においては、PDCAサイクルの考え方を活用し評価を実施します。毎年、人口動態統計や自殺統計の解析による自殺の状況や本計画に基づく施策の推進状況を把握し、よこはま自殺対策ネットワーク協議会に報告し、評価を行います。その際、ロジック・モデル の考え方を参考として各種指標を活用し、計画の効果の把握を行うことに努めます。  この評価に加え、計画を推進する上での社会経済状況の変化、自殺をめぐる諸情勢の変化等を踏まえ、5年ごとに計画の見直しを図ります。 脚注:ロジック・モデルとは、組織や事業が将来的に目指す長期的な成果を設定した際に、その達成のために必要な道筋を体系的に図式化したものです。 図表1−4:PDCAに基づく計画の進行管理を示しています。 計画(Plan):横浜市自殺対策計画の策定。 実行(Do):横浜市自殺対策計画の取組の実行。 評価(Check):効果検証のための分析・解析、取組の実施状況の確認。 改善(Action):取組内容の改善 【7ページ】 第2章、横浜市の現状と課題 【8ページ】 1、自殺対策の課題整理の方法  本計画においては、各種の統計データやこころの健康に関する市民意識調査、そして前計画の事業評価等に基づいて本市の自殺や自殺未遂等の状況を把握したうえで、横浜市自殺対策計画策定検討会において議論を行い、本市の自殺対策における課題を整理しました。 図表2−1:本市の自殺対策の課題整理方法を示しています。 1−ア、人口動態統計と自殺統計 人口動態統計と自殺統計に基づき、自殺者数・自殺死亡率の推移、自殺者の年齢構成、学生・生徒等の自殺者の状況、職業別の自殺者の状況、自殺の原因と動機、自殺者の自殺未遂歴の状況等について、本市の状況を整理しました。 1−イ、こころの健康に関する市民意識調査結果  令和4年度に実施した、こころの健康に関する市民意識調査結果に基づき、市民の悩みやストレスの状況、相談することに対する意識、希死念慮 や自殺未遂の状況等について整理しました。 1−ウ、消防局救急活動データ  消防局救急活動データの分析により、自殺未遂者支援の検討等に向けた基礎情報を整理しました。 1−エ、第1期横浜市自殺対策計画の振り返り 前計画である第1期横浜市自殺対策計画の実施状況を振り返り、施策の進捗を評価しました。 1−オ、横浜市自殺対策計画策定検討会における検討  有識者、医療関係者、福祉関係者、法律関係者、支援団体、労働関係者、報道関係者、女性支援団体、若年層支援機関等の各分野の関係者と、庁内関係各課から構成される「横浜市自殺対策計画策定検討会」において、上記の各種データや調査結果、事業評価を踏まえ、施策課題について検討を行いました。 脚注:希死念慮とは、「消えてなくなりたい」、「楽になりたい」といった「死にたい」等の思考を言います。 脚注:消防局救急活動データとは、横浜市消防局の業務統計の救急状況から、自損行為により救急要請・救急活動を行ったデータを集計、分析したものです。自損行為とは「故意に自分自身に傷害等を加えた事故」のことを言います。 【9ページ】 2、横浜市における自殺の状況 2−(1)資料に用いたデータについて 2−(1)−ア、人口動態統計、自殺統計の概要  人口動態統計とは、日本における日本人を対象としており、調査時点は住所地を基に死亡時点の統計です。計上処理については、自殺、他殺あるいは事故死のいずれか不明のときは自殺以外で処理しており、後日原因が判明して死亡診断書等の作成者から自殺の旨訂正報告があった場合には、遡って自殺に計上しています。  自殺統計とは、日本における外国人を含む総人口を対象としており、調査時点は発見地を基に自殺遺体発見時点の統計です。ただし、平成20年以前の横浜市のデータは、管轄が横浜市内の警察署である自殺者です。計上処理については、捜査により自殺であると判明した時点で、自殺統計原票を作成し計上しています。 図表2−2:人口動態統計と自殺統計の概要を示しています。 2−(1)−イ、統計データの留意点  「自殺死亡率」とは、人口10万人当たりの自殺者数です。  全体及び男女別の自殺死亡率の算出において、国勢調査年では原則、国勢調査による人口を、それ以外の年では各年10月1日時点の人口を使用しています。年齢階級別の自殺死亡率の算出においては、各年1月1日時点の人口を使用しています。  「%」は、それぞれの割合を小数点第2位で四捨五入して算出しているため、全ての割合を合計しても100%にならないことがあります。  自殺統計には、「職業」「自殺の原因・動機」等の項目がありますが、人口動態統計には、そのような項目はありません。そのため、原則として横浜市全体や性別、年齢階級別に分析する場合は人口動態統計を、職業や自殺の原因・動機などの項目について分析する場合には、自殺統計を用いています。  特に区域の表記がない図表については、横浜市の状況を表しています。  自殺統計原票は、平成19年、平成21年、令和4年において改正がなされており、自殺者の状況に関する経年比較にあたっては、比較可能な項目のみを掲載しています。  自殺統計のデータについては、神奈川県警察から提供を受けた時点のものを使用しているため、本資料の数値と厚生労働省の公表している数値の間で差異が生じている可能性があります。 【10ページ】 2−(2)自殺者数・自殺死亡率の年次推移  全国の自殺者数は、平成19年の約3万人から約10年間にわたって減少傾向にあり、令和元年には2万人を下回りました。その後の自殺者数は増加傾向にあり、令和4年には21,238人となっています。  横浜市の自殺者数は、平成22年の788人から平成30年の484人まで減少しましたが、その後は増加に転じ、令和4年の自殺者数は560人となっています。特に、令和元年から令和2年にかけて、自殺者数は60人増加しました。  横浜市の自殺死亡率は、全国の自殺死亡率よりも低くなっていますが、その差は平成17年の5.7から令和4年には2.6にまで縮小しました。 脚注:令和4年の自殺者数及び自殺死亡率は確定値ではなく概数です。 図表2−3:全国と神奈川県と横浜市の自殺者数の年次推移を示しています。 図表2−4:全国と神奈川県と横浜市の自殺死亡率の年次推移を示しています。 【11ページ】 2−(3)男女別の自殺者数・自殺死亡率の年次推移  男性の自殺者数は、いずれの年も、女性と比較して多くなっています。  横浜市全体の自殺者数は、平成22年から平成30年にかけて304人減少しましたが、その内訳は女性が56人、男性が248人となっています。  令和3年における女性の自殺者数は201人と、近年最も低かった令和元年の151人と比較して50人(33%)増加しています。また、男性の自殺者数においても、令和3年は373人と、近年最も低かった平成30年の316人と比較して57人(18%)増加しています。  令和3年における男性の自殺死亡率は、女性の自殺死亡率の2倍近くとなっています。 脚注:令和4年の自殺者数及び自殺死亡率は確定値ではなく概数であり、また横浜市では全体の人数のみ公表されています。 脚注:平成27年及び令和2年の自殺死亡率は、国勢調査における不詳補完後の男女別日本人の人口から算出しています。一方で平成17年及び平成22年においては、不詳補完後の男女別日本人人口が公表されていないため、他の年と同様に各年10月1日の人口データから自殺死亡率を算出しています。 図表2−5:男女別の自殺者数の年次推移を示しています。 図表2−6:男女別の自殺死亡率の年次推移を示しています。 【12ページ】 2−(4)年齢階級別の自殺者の状況  令和3年の横浜市の自殺者の年齢構成は、50歳代が約2割と最も多く、次いで30歳代、40歳代となっています。  横浜市の自殺者に占める40歳未満の割合は33.1%と、全国の28.4%と比較して高くなっています。 図表2−7:令和3年の全国と横浜市の自殺者の年齢構成を示しています。  令和3年における自殺死亡率を年齢階級別にみると、30歳代の20.6が最も高く、次いで50歳代が19.7、20歳代が17.9となっています。  40歳代、50歳代、70歳代の自殺死亡率は、直近10年程度は概ね低下傾向にありますが、20歳未満、20歳代、30歳代、60歳代、80歳以上の自殺死亡率は、直近3年で上昇傾向にあります。 図表2−8:年齢階級別の自殺死亡率の年次推移を示しています。 【13ページ】  令和3年における女性の自殺死亡率を年齢階級別にみると、50歳代の15.2が最も高く、次いで60歳代が13.0、30歳代が12.4となっています。  女性全体の自殺死亡率が上昇傾向にある令和元年から令和3年の2年間で、20歳未満、20歳代、30歳代、50歳代、60歳代の各年代の女性の自殺死亡率が3割以上、上昇しています。 図表2−9:女性の年齢階級別の自殺死亡率の年次推移を示しています。  令和3年における男性の自殺死亡率を年齢階級別にみると、30歳代の28.5が最も高く、次いで80歳代が27.6、20歳代が24.3となっています。  男性の自殺死亡率が上昇傾向にある平成30年から令和3年の3年間で、20歳未満、20歳代、30歳代、80歳以上の各年代の男性の自殺死亡率が2割以上上昇しています。 図表2−10:男性の年齢階級別の自殺死亡率の年次推移を示しています。 【14ページ】  20〜39歳の自殺死亡率は、平成23年の21.6から平成29年には13.2に低下しましたが、その後は上昇傾向となり、令和3年には19.3となっています。  また、自殺者全体に占める20〜39歳の割合は平成19年の31.7%から、平成29年には23.2%に低下しましたが、その後は上昇傾向にあり、令和3年には27.7%となっています。 図表2−11:20〜39歳の自殺死亡率と自殺者全体に占める割合の推移を示しています。 【15ページ】 2−(5)学生・生徒等の自殺者の状況  学生・生徒等の自殺者数は、平成24年から平成30年にかけて減少傾向にありましたが、令和4年では27人と、最も少なかった平成30年の15人と比較して約2倍となっています。  令和4年の学生・生徒等の自殺者は、大学生・専修学校生等が17人と約6割を占めています。また、中高生は10人で約4割となっています。 図表2−12:学生や生徒等の自殺者数の年次推移を示しています。 図表2−13:令和4年の学生や生徒等の自殺者の内訳を示しています。 【16ページ】 2−(6)職業別の自殺者の状況  職業別の自殺者数をみると、「無職者(学生・生徒等除く)」が最も多く、次いで「被雇用者・勤め人」が多くなっています。「被雇用者・勤め人」の自殺者数は、令和元年以降、増加傾向にあります。  男女別、年齢階級別の自殺者の職業をみると、40〜70歳代の「無職者(学生・生徒等除く)」の女性や、20〜50歳代の「被雇用者・勤め人」の男性の自殺者が多くなっています。 図表2−14:職業別の自殺者数の年次推移を示しています。 図表2−15:令和4年の男女別及び年齢階級別の自殺者の職業の上位3項目を示しています。 【17ページ】  女性の自殺者数について、平成27年から令和元年の5年間の平均と令和2年から令和4年の3年間の平均を比較すると、「有職者、20歳代」、「有職者、30歳代」、「有職者、50歳代」、「無職者、20歳未満」、「無職者、60歳代」の自殺者数が特に増加しています。  男性の自殺者数について、平成27年から令和元年の5年間の平均と令和2年から令和4年の3年間の平均を比較すると、「有職者、20歳代」、「有職者、50歳代」、「無職者、20歳代」、「無職者、30歳代」、「無職者、80歳代以上」の自殺者数が特に増加している一方で、「無職者、50歳代」、「無職者、60歳代」の自殺者数は大きく減少しています。 図表2−16:女性の職業有無別及び年齢階級別の自殺者数における新型コロナウイルス感染拡大前の平成27年から令和元年までと感染拡大後の令和2年から令和4年までの比較を示しています。 図表2−17:男性の職業有無別及び年齢階級別の自殺者数における新型コロナウイルス感染拡大前の平成27年から令和元年までと感染拡大後の令和2年から令和4年までの比較を示しています。 【18ページ】 2−(7)自殺の原因・動機  自殺の原因・動機は、「健康問題」が最も多く、次いで「家庭問題」、「経済・生活問題」となっています。  「健康問題」の内訳としては、「病気の悩み・影響(うつ病)」が最も多くなっています。 図表2−18:令和4年の自殺の原因と動機を示しています。 図表2−19:令和4年の健康問題の内訳を示しています。 【19ページ】  自殺の原因・動機について、女性は「健康問題」が最も多く、次いで「家庭問題」となっています。また、男性は「健康問題」が最も多く、次いで「経済・生活問題」、「勤務問題」となっています。  男女別・年齢階級別に自殺の原因・動機をみると、50歳代の男性を除き、男女ともに全ての年齢階級で自殺の原因・動機の1番目に「健康問題」が含まれています。  「健康問題」以外では、30歳代の女性で「家庭問題」が、20歳代の男性で「経済・生活問題」、「勤務問題」が、50歳代の男性で「経済・生活問題」が多くなっています。 図表2−20:令和4年の男女別及び年齢階級別の自殺の原因や動機の上位3項目を示しています。 【20ページ】  職業別に自殺の原因・動機をみると、「被雇用者・勤め人」、「主婦・主夫」、「年金受給者」、「生活保護受給者」、「その他の無職者(ひきこもり)」、「その他の無職者(ひきこもり以外)」において、「健康問題」が最も多くなっています。  「健康問題以外」では、「自営業・家族従業者」、「失業者・雇用保険受給者」で「経済・生活問題」が、「被雇用者・勤め人」で「勤務問題」が、「学生・生徒等」で「学校問題」が多くなっています。 脚注:「その他の無職者(ひきこもり以外)には、「利子・配当・家賃等生活者」及び「ホームレス」を含みます。また、自殺の原因・動機が「その他」または「不詳」である者は、掲載を省略しています。 図表2−21:令和4年の職業別の自殺の原因や動機の上位3項目を示しています。 【21ページ】  女性の自殺の原因・動機は、平成19年以降、一貫して「健康問題」、「家庭問題」の順で多くなっています。「健康問題」は、令和元年と比較して、令和2年及び令和3年において多くなっています。また、「家庭問題」は、平成29年から令和3年の5年間で増加傾向にあります。  男性の自殺の原因・動機の上位2項目である「健康問題」、「経済・生活問題」は、平成30年以降、概ね横ばいとなっています。一方で、「家庭問題」、「勤務問題」は、平成29年以降増加傾向にあります。 図表2−22:平成19年から令和3年までの女性の自殺の原因や動機別の自殺者数の年次推移を示しています。 図表2−23:平成19年から令和3年までの男性の自殺の原因や動機別の自殺者数の年次推移を示しています。 【22ページ】 2−(8)自殺者における自殺未遂歴の状況  横浜市の自殺者における自殺未遂歴がある者の割合は、令和4年の女性では28.2%と、男性の12.2%と比較して高くなっています。なお、横浜市全体では17.6%となっています。  自殺未遂歴がある者の割合は、年によって変動がありますが、女性では概ね3割前後、男性では概ね1〜2割程度で推移しています。  令和4年の自殺者では、自殺未遂の時期が「1年以内」(「1か月以内」を含む)である者の割合が52.8%と約半数となっています。 図表2−24:全国と横浜市の自殺者における自殺未遂歴がある者の割合の年次推移を示しています。 図表2−25:令和4年の自殺者における自殺未遂の時期を示しています。 【23ページ】 2−(9)自殺者における医療施設への通院状況  自殺者全体のうち、精神科・心療内科に通院中であった者は約4割、いずれかの医療施設 に通院中であった者は約5割となっています。  女性では、男性と比較して、医療施設に通院していた者の割合が高くなっています。 脚注:「いずれかの医療施設」の通院状況は、「精神科・心療内科」または「その他医療施設」のいずれかに通院していた者の割合。 図表2−26:令和4年の男女別の自殺者における医療施設への通院状況を示しています。 【24ページ】 3、調査結果から見た横浜市の現状 3−(1)こころの健康に関する市民意識調査結果 3−(1)−ア、調査の概要 3−(1)−ア−(ア)調査の実施目的  市民の自殺に対する考え方、イメージや現状等の把握及び自殺対策事業の効果を測定し、その結果を明らかにすることで、今後の自殺対策における具体的取組に反映させることを目的として、「こころの健康に関する市民意識調査」を実施しました。 3−(1)−ア−(イ)調査対象  市内在住の16歳以上75歳未満の市民の中から、5,000人を無作為に抽出 3−(1)−ア−(ウ)調査方法  郵送配布、郵送あるいはインターネット回収による調査 3−(1)−ア−(エ)調査期間  令和4年8〜9月 3−(1)−ア−(オ)回収状況  回収状況については、下記のとおりです。  A:配布数5,000件  B:回収数1,832件  C:回収率36.6% 3−(1)−ア−(カ)ウェイトバック集計  集計・分析に当たり、今回調査及び前回調査(平成28年度)の回答者の年齢階級及び性別の偏りを補正し、標本数をウェイトバック集計しました。  ウェイトバック集計した値は、この規正した標本数を基に回答者の割合(百分比%)等を算出しています。なお、規正した標本数は、乗算結果の小数点以下第1位を四捨五入しているため、総数と内訳が一致しない場合があります。ウェイトバック処理を実施して集計している図表においては、n値の掲載を省略しています。 3−(1)−ア−(キ)集計の対象件数  「(オ)回収状況」に記載している回収数1,832件のうち、年齢別男女別のウェイトバック集計を実施するにあたり、年齢、あるいは性別が不明、無回答のデータ(32件)を除外した1,800件を集計対象としています。  また、前回調査の時系列比較を行うことも考慮して、前回調査についてもウェイトバック集計を行いました。なお、前回調査の集計対象は16歳以上75歳未満で年齢及び性別の回答があった1,173件となっています。 【25ページ】 3−(1)−イ、悩みやストレスについて 3−(1)−イ−(ア)K6(ケーシックスと読みます) の集計結果  K6の集計結果を男女別にみると、「高い:13点以上」と「やや高い:5点以上12点以下」を合わせた割合が、女性では若年層 ほど高くなっており、「16〜24歳」では51.6%となっています。一方、男性では「25〜39歳」が最も高く49.5%となっており、それ以上の年齢層では高齢ほどK6が低くなっています。  なお、前回調査と比較すると、女性、男性いずれも「高い」と「やや高い」を合わせた割合が低くなっています。 脚注:K6とは、うつ病・不安障害等の精神疾患のスクリーニングを目的として、Kesslerらによって開発された尺度です。6項目の質問から構成され、点数が高いほど、精神的な不調を感じている度合いが強いことを示しています。 脚注:若年層とは、39歳以下の年齢層のことを言います。 図表2−27:女性の年齢別におけるK6の集計結果を示しています。 図表2−28:男性の年齢別におけるK6の集計結果を示しています。 【26ページ】 3−(1)−イ−(イ)UCLA孤独感尺度 の集計結果  UCLA孤独感尺度の集計結果を男女別にみると、「高い:10点以上」と「やや高い:7点以上9点以下」を合わせた割合について、女性では「25〜39歳」が最も高く、男性では「40〜49歳」が最も高くなっています。一方、「高い:10点以上」については、女性では「16〜24歳」が最も高くなっています。男性については、「40〜49歳」が最も高くなっています。  また、UCLA孤独感尺度の点数が高いほど、K6の点数が高くなる傾向がみられます。 脚注:UCLA孤独感尺度とは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の3人の研究者が孤独という主観的な感情を間接的な質問により数値的に測定しようと考案したものです。本調査では3項目の設問で構成され、点数が高いほど、孤独感が強いと判断するものです。 図表2−29:女性の年齢別におけるUCLA孤独感尺度の集計結果を示しています。 図表2−30:男性の年齢別におけるUCLA孤独感尺度の集計結果を示しています。 【27ページ】 図表2−31:UCLA孤独感尺度のK6の集計結果を示しています。 3−(1)−イ−(ウ)日常生活の不満・悩み・苦労・ストレスの解消方法  日常生活の不満・悩み・苦労・ストレスの解消方法を男女別にみると、男女ともに「睡眠をとる」や「ひとりで趣味やレジャーをする」が上位となっています。  また、多くの項目について、女性が男性を上回っており、とりわけ「人に話を聞いてもらう」は約30ポイントの差があります。反対に、「飲酒・喫煙」は男性の方が高くなっており、男女間では20ポイント以上の差があります。 図表2−32:男女別のストレス解消の方法を示しています。 【28ページ】 3−(1)−ウ、相談することについて 3−(1)−ウ−(ア)悩みを抱えたり困難に直面した時に相談することに対する意識  「誰かに助けを求めたり、相談したいと思う」の回答割合については、女性で69.4%、男性で50.8%と、女性の方が男性よりも高くなっています。一方で、「誰かに助けを求めたり、相談することは恥ずかしいことだと思う」や「自分ひとりで解決するべきだと思う」は男性の方が女性よりも高くなっています。 図表2−33:男女別の悩みを抱えたり困難に直面した時に相談することに対する意識を示しています。  男女別・年齢別にみると、「誰かに助けを求めたり、相談することは恥ずかしいことだと思う」に関して、女性の年齢が低いほど、回答割合が高くなっています。  「誰かに相談したいと思う」一方で、「相談することは恥ずかしいことだと思う」「自分ひとりで解決するべきだと思う」といったように、相談することに対する葛藤といった観点から見ると、女性は「16〜24歳」、男性は「25〜39歳」「40〜49歳」で葛藤を抱えている可能性があります。 図表2−34:男女別及び年齢別の悩みを抱えたり困難に直面した時に相談することに対する意識を示しています。 【29ページ】 3−(1)−ウ−(イ)悩みやストレスを感じた時の相談方法  悩みやストレスを感じた時の相談方法については、「直接会って相談する」「インターネットで解決法を検索する」「メールで相談する」など、相談方法の種類に関係なく、女性の方が男性よりも回答割合が高くなっています。  年齢別にみると、女性・男性いずれにおいても、年齢が低いほど多くの選択肢において回答割合が高くなっており、相談方法が多様であることがうかがえます。一方で、「65〜74歳」では、全ての選択肢において回答割合が低くなっており、相談自体のハードルが高いことが推察されます。 図表2−35:男女別及び年齢別の相談方法を示しています。 【30ページ】 3−(1)−ウ−(ウ)精神的ストレスや心の不調を抱えた時のかかりつけ医師への相談  精神的ストレスや心の不調を抱えた時に、かかりつけ医師へ相談するか否かを年齢別にみると、かかりつけ医師への相談に前向き(「相談する」と「おそらく相談する」の合計)である割合は、年齢が上がるほど高くなっています。 図表2−36:年齢別の精神的ストレスや心の不調を抱えた時のかかりつけ医師への相談について示しています。 【31ページ】 3−(1)−ウ−(エ)精神科や心療内科を受診することへの抵抗感  精神科や心療内科を受診することへの抵抗感について、女性を年齢別にみると、年齢が低いほど、「そう思う」の回答割合が高くなっており、とりわけ、「16〜24歳」は半数以上が抵抗感を感じている(「そう思う」と「ややそう思う」の合計)結果となっています。一方で、男性の年齢別にみると、「40〜49歳」において、「そう思う」の回答割合が最も高くなっています。  なお、年齢が上がるほど、精神科・心療内科への抵抗感が少なくなっていることがうかがえます(「あまり思わない」と「思わない」の合計)。 図表2−37:女性の年齢別における精神科・心療内科を受診することへの抵抗感について示しています。 図表2−38:男性の年齢別における精神科・心療内科を受診することへの抵抗感について示しています。 【32ページ】 3−(1)−エ、希死念慮や自殺未遂について 3−(1)−エ−(ア)これまでの人生の中での希死念慮の有無  これまでの人生の中で本気で自殺したいと思ったことがある割合は、女性全体では26.9%、男性全体では22.5%となっており、女性の方が高くなっています。  男女別・年齢別にこれまでの人生の中で本気で「自殺したいと思ったことがある」割合をみると、女性においては年齢が低いほど高くなっており、16〜24歳では36.3%となっています。男性においても、年齢が低いほど高くなっており、16〜24歳では27.8%となっています。 図表2−39:女性の年齢別におけるこれまでの人生で本気で自殺したいと思ったことがあるかについて示しています。 図表2−40:男性の年齢別におけるこれまでの人生で本気で自殺したいと思ったことがあるかについて示しています。 【33ページ】  K6の高低別、UCLA孤独感尺度の高低別に、これまでの人生の中で本気で自殺したいと思ったことがある割合をみると、K6とUCLA孤独感尺度のいずれにおいても、点数が高いほど「自殺したいと思ったことがある」割合が高くなっています。 図2−41:K6の高低別におけるこれまでの人生で本気で自殺したいと思ったことがあるかを示しています。 図2−42:UCLA孤独感尺度の高低別におけるこれまでの人生で本気で自殺したいと思ったことがあるかを示しています。 【34ページ】 3−(1)−エ−(イ)過去1年以内の希死念慮の有無  「これまでに自殺したいと思ったことがある」人のうち、「1年以内に自殺したいと思ったことがある」割合は、女性全体では28.2%、男性全体では22.9%となっており、女性の方が高くなっています。  男女別・年齢別に「1年以内に自殺したいと思ったことがある」割合をみると、女性においては若年層ほど高くなっており、16〜24歳では52.3%と半数以上となっています。 脚注:本設問は、「これまでに自殺したいと思ったことがある」人のみを集計対象としています。 図表2−43:女性の年齢別における過去1年以内に自殺したいと思ったことがあるかについて示しています。 図表2−44:男性の年齢別における過去1年以内に自殺したいと思ったことがあるかについて示しています。 【35ページ】  K6の高低別、UCLA孤独感尺度の高低別に、「1年以内に自殺したいと思ったことがある」割合をみると、K6とUCLA孤独感尺度のいずれにおいても、点数が高いほど「自殺したいと思ったことがある」の割合が高くなっています。 図表2−45:K6の高低別において1年以内に自殺したいと思ったことがあるかについて示しています。 図表2−46:UCLA孤独感尺度の高低別における1年以内に自殺したいと思ったことがあるかについて示しています。 【36ページ】 3−(1)−エ−(ウ)これまでの自殺未遂の経験  これまでに自殺したいと思ったことがある人の自殺未遂の経験は、女性では「1回だけある」が18.1%、「複数回ある」が13.5%であり、男性では「1回だけある」が15.1%、「複数回ある」が9.2%となっていました。 図表2−47:男女別のこれまでの自殺未遂の経験について示しています。  K6の高低別、UCLA孤独感尺度の高低別にみると、これらの尺度の点数が高いほど「1回だけある」「複数回ある」の割合が高くなっています。特に、K6とUCLA孤独感尺度の点数が「高い」場合、「複数回ある」の割合が顕著に高くなっています。 脚注:本設問は、「これまでに自殺したいと思ったことがある」人のみを集計対象としています。 図表2−48:K6の高低別におけるこれまでの自殺未遂の経験について示しています。 図表2−49:UCLA孤独感尺度の高低別におけるこれまでの自殺未遂の経験について示しています。 【37ページ】  相談することへの意識として、悩みを抱えたり困難に直面した時に、「自分ひとりで解決するべきだと思う」人ほど、自殺未遂の経験が複数ある割合が高くなっています。 図表2−50:相談することへの意識別における自殺未遂の経験が複数ある割合を示しています。 3−(1)−オ、ゲートキーパー的な関わりについて  身近な人が悩みやストレスを感じている時に、どのようなことに注意して対応しているかについて、「本人の気持ちを否定しないで受け止める」が84.8%と最も高く、次いで「共感の気持ちを伝える」が82.1%、「普段から身近な人の様子に関心をもつ」が79.1%となっており、多くの項目について8割前後となっています。一方で、「相談できる人につなげる」は48.5%に留まっています。 図表2−51:身近な人への関わり方を示しています。 【38ページ】 3−(1)−カ、自殺に関する啓発について  これまでに見たことのある啓発物について、女性全体では「ポスター」が51.5%、「インターネットページ」が29.1%、男性全体では「ポスター」が59.2%、「インターネットページ」が34.1%となっています。一方で、「見たことはない」が、女性では27.5%、男性では24.7%となっています。  男女別・年齢別にみると、若年層ほど、「インターネットページ」の回答割合が高い傾向が見られます。加えて、「広報誌」については、男女いずれも65〜74歳の回答割合が他の年齢よりも高くなっています。 図表2−52:男女別及び年齢別におけるこれまでに見たことのある啓発物について示しています。 【39ページ】 3−(1)−キ、自死遺族 の困りごとについて  身近な人の自死で困ったこととして、全体では、「必要な情報が届かなかった」が46.6%と最も高く、次いで「人に話せず、悲しみを分かち合えなかった」が36.6%、「心身の不調が生じた」が33.4%となっています。 脚注:自死遺族とは、自殺で身近なかたをなくされた遺族を指します。身近なかたを自殺でなくされた遺族は「殺」という文字に傷つくことがあります。そのため、遺族については「自殺」ではなく、「自死」という言葉を使います。 図表2−53:身近な人の自死で困ったことについて示しています。 【40ページ】 3−(2)消防局救急活動データ 3−(2)−ア、救急活動の基本情報 3−(2)−ア−(ア)自損行為に伴う出場件数の推移  自損行為に伴う消防局の出場件数は、平成30年から令和4年にかけて増加傾向にあり、令和4年には1,654件となっています。男女別の内訳をみると、毎年女性に対する出場件数の方が多くなっており、令和4年の女性の件数は平成30年と比べて303件増加し944件となっています。  男女別・年齢別に自損行為に伴う出場件数をみると、女性においては過去5年間で20歳代が顕著に増加していることがうかがえます。また、男性においては、20歳代から50歳代が多くなっており、特に20歳代が過去5年間で顕著に増加しています。 図表2−54:男女別の自損行為に伴う出場件数の推移を示しています。 図表2−55:男女別及び年齢別における自損行為に伴う出場件数の推移を示しています。 【41ページ】 3−(2)−ア−(イ)出場場所行政区  自損行為に伴う救急出動の出場場所行政区については、「中区」が9.1%と最も多く、次いで「鶴見区」「南区」が7.3%、「港北区」が7.1%、「戸塚区」「旭区」が7.0%となっています。 図表2−56:自損行為に伴う出場場所行政区を示しています。 3−(2)−ア−(ウ)自損行為の発生場所  自損行為の発生場所は、「住宅」が78.7%と8割近くを占めており、その他に「公衆出入の場所」が10.2%となっています。 図表2−57:自損行為の発生場所を示しています。 【42ページ】 3−(2)−イ、搬送状況 3−(2)−イ−(ア)自損行為者の搬送状況  自損行為の搬送件数は増加傾向にあり、令和4年時点では、自損行為に伴う出場件数1,654件のうち、「搬送」が1,020件、「不取扱 」が634件となっています。 搬送状況を男女別にみると、「不取扱」の割合が女性では30.9%であるのに対して、男性は46.4%と高くなっており、特に40歳代から60歳代の男性の「不取扱」の割合は5割を超えています。 脚注:不取扱は、救急出動したものの、救急医療機関等へ搬送を行わなかった事案を指します。 図表2−58:自損行為者の搬送状況を示しています。 図表2−59:男女別及び年齢別における自損行為者の搬送状況を示しています。 【43ページ】 3−(2)−イ−(イ)不取扱の理由  不取扱の理由を男女別にみると、女性では「拒否・辞退」が57.3%と最も多く、男性では「死亡」が69.8%と最も多くなっています。  男女別・年齢別にみると、女性においては、60歳代以上では「死亡」が最も多くなっていますが、10歳代から50歳代では「拒否・辞退」が最も多くなっています。一方、男性では、10歳未満を除くいずれの年齢においても「死亡」が最も多くなっており、特に40歳代や60歳代以上では「死亡」が7割以上となっています。 図表2−60:男女別及び年齢別における不取扱の理由を示しています。 【44ページ】 3−(2)−ウ、搬送者の傷病の状況 3−(2)−ウ−(ア)受傷原因  搬送された場合の受傷原因を男女別にみると、女性では「薬物(医薬品)」が28.9%と最も多く、次いで「自己切創」が24.6%、「薬物(その他)」が17.2%となっています。一方で男性では、「縊首」が29.4%と最も多く、次いで「自己切創」が26.1%、「薬物(医薬品)」が13.5%となっています。 図表2−61:男女別の受傷原因を示しています。 3−(2)−ウ−(イ)傷病の程度  搬送された場合の傷病の程度を男女別にみると、女性では「中等症」が41.5%と最も多く、次いで「軽傷」が30.3%となっています。一方、男性では、「中等症」が29.5%と最も多くなっていますが、次いで「重篤」が26.0%となっています。 図表2−62:傷病の程度を示しています。 【45ページ】 3−(2)−ウ−(ウ)自損行為者の状況別の搬送状況  自損行為者について、「未遂(不取扱)」「未遂(搬送)」「現場死亡(不取扱)」「搬送後死亡(搬送)」の4つの類型に分けた結果を男女別にみると、女性では「未遂(搬送)」が最も多く66.3%、次いで「未遂(不取扱)」が21.5%となっています。一方、男性では、「未遂(搬送)」が最も多く49.2%ですが、次いで「現場死亡(不取扱)」が32.4%となっています。 図表2−63:男女別の自損行為者の状況別における搬送状況を示しています。 3−(2)−エ、既往症(きおうしょうと読みます)の状況 3−(2)−エ−(ア)既往症の有無  自損行為者について、既往症の有無をみると、「あり」が69.6%、「なし」が13.0%となっています。 図表2−64:既往症の有無について示しています。 【46ページ】 3−(2)−エ−(イ)既往症の内容  既往症の内容を男女別にみると、女性も男性も「精神疾患」が最も多くなっていますが、女性では86.2%、男性では67.5%となっており、女性の方が多くなっています。  精神疾患とその他以外の既往症では、女性より男性の方が多くなっています。  精神疾患の内訳をみると、女性も男性も「うつ病」が最も多くなっています。 図表2−65:男女別の既往症の内容について示しています。 図表2−66:精神疾患の内容について示しています。 【47ページ】 3−(2)−エ−(ウ)自損行為者の状況及び搬送状況別の既往症  自損行為者のうち既往症が「ある」場合について、「未遂(不取扱)」「未遂(搬送)」「現場死亡(不取扱)」「搬送後死亡(搬送)」の4つの類型に分けた結果ごとに既往症を見ると、「未遂(不取扱)」「未遂(搬送)」において精神疾患の割合が8割を超えており、特に「未遂(不取扱)」の場合の精神疾患の割合が87.5%と最も高くなっています。 図表2−67:自損行為者の既往症について示しています。 【48ページ】 4、第1期横浜市自殺対策計画の振り返り 4−(1)第1期横浜市自殺対策計画の目標の達成状況  第1期横浜市自殺対策計画においては、誰もが自殺に追い込まれることのない社会の実現に向けて、「目標1、2023年(令和5年)に自殺死亡率を11.7以下へ」と「目標2、ゲートキーパーを延べ18,000人養成する」の2つの目標を設定しました。目標1の自殺死亡率の設定については、2015年(平成27年)と比べて、人口動態統計に基づく自殺死亡率を30%減少させることを目指しています。  それぞれの目標の達成状況は、目標1については、令和2年以降の自殺者数の増加に伴い令和4年時点で自殺死亡率が14.8(概数)となっており、目標達成が困難な状況にあります。  一方、目標2については、令和4年度時点で累計16,902人となっており、目標を上回るペースでゲートキーパー養成が進められています。 【49ページ】 4−(2)基本施策の取組状況  第1期横浜市自殺対策計画においては、これまでの一連の自殺対策を、自殺総合対策大綱等を踏まえ、基本施策として位置づけました。  各基本施策の実施目標等は、ほぼ全ての基本施策において、当初の計画どおり進展しました。 【50ページ】 4−(3)重点施策の取組状況  第1期横浜市自殺対策計画においては、計画策定時の本市の自殺に関する状況を踏まえ、3つの重点施策を定めました。  重点施策1として、40〜50歳代の自殺者が全体の4割を超えることから、自殺者の多い年代や生活状況に応じた対策の充実に取り組みます。  重点施策2として、自殺者のうち未遂歴のある方が2割を超えることから、自殺未遂者への支援の強化に取り組みます。  重点施策3として、30歳代以下の自殺死亡率が減少しないことから、若年層対策の推進に取り組みます 各重点施策の実施状況は、いずれも当初の計画どおり進展しました。  重点施策1の自殺者の多い年代や生活状況に応じた対策の充実については、年代や対象層に焦点をあてた効果的な情報提供や人材育成を実施しました。  重点施策2の自殺未遂者への支援の強化については、自殺未遂者に関する調査を行い、強化策の検討を実施しました。  重点施策3の若年層対策の推進については、インターネット等を活用した相談支援方法の構築を実施しました。 【51ページ】 5、第2期横浜市自殺対策計画策定におけるポイント 5−ア、人口動態統計と自殺統計に基づくポイント 5−ア−(ア)男女別・年齢階級別の自殺者数と自殺死亡率  横浜市においては、全国の傾向と同様に、近年自殺者数と自殺死亡率が増加し、令和4年時点(概数)で自殺者数560人、自殺死亡率14.8となっていました。男女別に見ると、女性の自殺者数・自殺死亡率は令和元年以降増加傾向にあり、男性においては平成30年以降増加傾向にありました。背景として、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が影響していることが考えられます。  依然として男性の自殺者数・自殺死亡率が女性よりも高い水準にありますが、全国の傾向と同様に、横浜市においても女性の自殺者数・自殺死亡率の増加率が高くなっています。また、女性を年齢階級別にみると、30歳代以下、50歳代、60歳代の各年代の自殺死亡率の増加が、近年顕著に見られました。  このことから、男性の自殺者数・自殺死亡率が依然として高いことに配慮しつつ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等に伴う女性や若年層等の困難・生きづらさへの対策が求められています。 5−ア−(イ)学生・生徒等を含む、職業別の自殺者の状況  学生・生徒等の自殺者数は、令和4年では27人と、近年最も少なかった平成30年の15人と比較して約2倍となっており、男女別の内訳をみると、女性7人・男性20人となっていました。  職業別の自殺者数は、「無職者(学生・生徒等除く)」が最も多くなっていましたが、「被雇用者・勤め人」が、令和元年以降、増加傾向にあり、令和4年時点で186人でした。  男女別、年齢階級別の自殺者の職業をみると、40〜70歳代の「無職者(学生・生徒等除く)」の女性や、20〜50歳代の「被雇用者・勤め人」の男性の自殺者が多くなっていました。  女性の自殺者数について、平成27年から令和元年の5年間の平均と令和2年から令和4年の3年間の平均を比較すると、「有職者、20歳代」、「有職者、30歳代」、「有職者、50歳代」、「無職者、20歳未満」、「無職者、60歳代」の自殺者数が特に増加していました。  男性の自殺者数について、平成27年から令和元年の5年間の平均と令和2年から令和4年の3年間の平均を比較すると、「有職者、20歳代」、「有職者、50歳代」、「無職者、20歳代」、「無職者、30歳代」、「無職者、80歳代以上」の自殺者数が特に増加している一方で、「無職者、50歳代」、「無職者、60歳代」の自殺者数は大きく減少していました。  このことから、性別・年齢・職業等の観点を踏まえながら対象者を明確にし、地域・職域・教育機関等における自殺予防教育や自殺対策を実施することが求められています。 5−ア−(ウ)自殺の原因・動機  自殺の原因・動機は、「健康問題」が最も多くなっており、中でも「病気の悩み・影響(うつ病)」が最も多くなっていました。男女別・年齢階級別に見ても、男女共通して多くの年代において「健康問題」が最も多くなっていました。  一方で、男女別・年齢階級別に見ると、性別や年代によって「家庭問題」「経済・生活問題」「勤務問題」が多くなっており、また、職業別に見ると、自営業・家族従業者や失業者・雇用保険受給者において「経済・生活問題」が、被雇用者・勤め人において「勤務問題」が、学生・生徒等において「学校問題」が比較的多くなっていました。  自殺者の性別・年代・職業等によって、多様な生きづらさを抱えていることを踏まえた対策が求められています。 【52ページ】 5−ア−(エ)自殺未遂歴の状況  自殺者に占める自殺未遂歴ありの者の割合は、女性では概ね3割前後、男性では概ね1〜2割程度で推移していました。そのうち1年以内に自殺未遂歴がある者は、女性では約6割、男性では約4割となっていました。  男性は少ない自殺企図 で既遂(死亡)となる場合が多く、女性においては自殺未遂を繰り返す傾向が比較的多く見られます。自殺企図を起こす前の段階における予防的取組と自殺リスクの高いかたへの危機介入、自殺未遂後の事後対応のそれぞれの段階において、性別による傾向の相違を踏まえた対策を検討することが求められています。 5−イ、こころの健康に関する市民意識調査に基づくポイント 5−イ−(ア)ストレスの状況とストレスへの対処  K6については、女性も男性も若年層ほど点数が高い傾向が見られました。そして、K6の点数が高いほど希死念慮があり、自殺未遂の経験も多いことが明らかになりました。若年層に重点を置き、こころの健康度を向上させる対策が重要であると考えられます。  UCLA孤独感尺度については、女性では「25〜39歳」で点数が「高い」「やや高い」の割合が最も高く、また、男性では「40〜49歳」で点数が「高い」「やや高い」の割合が最も高くなっていました。K6同様にUCLA孤独感尺度についても、点数が高いほど希死念慮があり、自殺未遂の経験も多いことが明らかになっています。孤独感の強い年代に重点を置き、孤独感尺度を減少させるような対策が重要であると考えられます。  なお、男性は女性よりもひとりで実施するストレス解消方法を選択する傾向が見られ、特に「人に話を聞いてもらう」ことは女性と比較して約30ポイント以上低くなっていたことにも留意することが重要です。 5−イ−(イ)相談の状況  相談することへの意識について、女性の方が男性よりも「相談する」「助けを求める」といった、援助希求的な態度を有している傾向が見られました。  また、「誰かに相談したいと思う」一方で、「相談することは恥ずかしいことだと思う」、「自分ひとりで解決すべきだと思う」というように、相談することに対する葛藤といった観点から見ると、女性は「16〜24歳」、男性は「25〜39歳」「40〜49歳」で葛藤を抱えている可能性があります。相談に対する葛藤を踏まえながら、困った時には相談することの動機づけを高めることが重要と思われます。  相談方法について、若年層では「直接会って相談する」、「電話」、「メール」、「SNS」、「インターネット」のいずれの回答割合も非常に高く、様々なチャネルを通じて相談につなげていくことが重要であると言えます。一方で、高齢であるほどいずれの相談方法でも相談しない傾向がうかがえました。ただし、高齢層のかたにとって、かかりつけ医師への相談のハードルは低く、また精神科・心療内科への抵抗感が低いことがわかりました。 脚注:自殺企図とは、自ら自分の生命を絶つ自殺行為を、実際に企てることを言います。 【53ページ】 5−イ−(ウ)希死念慮と自殺未遂の状況  希死念慮を持つ人の割合については、若年層ほど高いことが明らかになりました。希死念慮が自殺企図につながらないようにアプローチを行う必要があり、その際、若年層の「自殺したいと思った理由」に留意してアプローチすることが求められています。  これまでの人生の中で本気で自殺したいと思ったことがある割合は、女性全体では26.9%、男性全体では22.5%となっており、女性の方が高くなっていました。また、「1年以内に自殺したいと思ったことがある」割合は、女性全体では28.2%、男性全体では22.9%となっており、女性の方が高くなっていました。  これまでに自殺したいと思ったことがある人の自殺未遂の経験は、女性では「1回だけある」が18.1%、「複数回ある」が13.5%の合計31.6%、男性では「1回だけある」が15.1%、「複数回ある」が9.2%の合計24.3%となっていました。  K6やUCLA孤独感尺度が「高い」人ほど、自殺未遂の経験が「複数回ある」割合が顕著に多くなっていました。自殺未遂者支援にあたっては、抑うつ感や孤独感への対応の重要性がうかがえます。  悩みを抱えたり困難に直面した時、「自分ひとりで解決すべきだと思う」人ほど、希死念慮を抱く割合が高くなっていました。また、「自分ひとりで解決すべきだと思う」人ほど、自殺未遂が複数回あると回答した割合が高くなっていました。このことから、困った時には相談するといった、動機づけをすることにより、希死念慮を抱くことや、自殺未遂者の再企図の予防につながることが期待されます。 5−イ−(エ)ゲートキーパー的な関わりについて  8割以上の市民が、「本人の気持ちを否定しないで受け止める」「共感の気持ちを伝える」といったことを実施しており、個人のスキルとしてはゲートキーパー的な機能を発揮していることがうかがえました。一方で、社会的なスキルを示す「相談できる人につなげる」については、半数以下にとどまっており、“つなぎ”の知識として、支援機関の周知の重要性が示唆されました。 5−イ−(オ)自殺に関する啓発の状況  自殺の啓発にあたっては、啓発物を「見たことはない」の割合を減少させることが重要と思われます。そのために、男女別・年代別等にあわせた広報・啓発手法を選択することが重要です。  啓発手法については、内容の充実とあわせ、「インターネット」や「ポスター」等、対象者にあわせた手法を有効活用することが重要です。 5−イ−(カ)自死遺族の困りごと  遺された家族や関係者にとって、どのような情報が「必要」なのかを把握・整理しながら、わかりやすく提供すること、また、悲しみを分かちあう機会や場を設置し、そのような機会があることを遺された家族や関係者にわかりやすく周知することが重要です。あわせて、心身の不調の際の相談先の周知なども求められています。 【54ページ】 5−ウ、消防局救急活動データに基づくポイント  自損行為に伴う出場件数を男女別にみると、毎年女性に対する出場件数の方が多くなっており、令和4年の女性の件数は平成30年と比べて303件増加し944件となっていました。  若年層(特に20歳代)の自損行為による出場が男女問わず増加しており、若年層対策の重要性がうかがえました。  男性においては「死亡」による不取扱のケースが多く、自殺予防の取組が特に重要であることがうかがえました。  自損行為をしたものの不取扱になったかたにおいて、既往症として精神疾患を有している場合が比較的多く、精神科等の医療機関へとつなげることが重要であると言えます。また、特に女性においては、救急活動を「拒否・辞退」した結果、不取扱となった場合が多くなっており、救急活動によって医療機関につながらなかったかたを、必要な支援につなげる取組の重要性がうかがえました。 【55ページ】 第3章、横浜市の自殺対策における基本認識と取組の方向性 【56ページ】 1、基本認識と施策体系 1−(1)基本認識  国の「自殺総合対策大綱」及び神奈川県の「かながわ自殺対策計画」を踏まえ、次の項目を本市の自殺対策の基本認識とします。 1−(1)−ア、自殺は、その多くが追い込まれた末の死である  自殺は、人が自ら命を絶つ瞬間的な行為としてだけではなく、人が命を絶たざるを得ない状況に追い込まれる過程として捉える必要があります。自殺に至る心理としては、仕事や家庭、健康など様々な悩みが原因で心理的に追い詰められ、自殺以外のことを考える余裕のない状態に陥るなど、危機的な精神状態にまで追い込まれてしまう過程と見ることができます。  自殺行動に至った人の直前の心の健康状態を見ると、大多数のかたは様々な悩みによって心理的に追い詰められた結果、抑うつ状態やうつ病、アルコール依存症等に陥っている場合も多く、これらの影響によって正常な判断を行うことができない状態となっていることが明らかになっています。  職場の人間関係や健康など一つの悩みをきっかけにいくつもの悩みが重なって不安が増大しても、悩みを打ち明けることができる相手が見つからずに孤立し、最終的には心理的にも追い込まれて自殺に至るようなケースが少なくないと認識することが必要です。 図表3−1:自殺の危機要因イメージ図を示しています。 【57ページ】 1−(1)−イ、自殺は、その多くが社会的な取組で防ぐことのできる問題である  経済・生活問題、健康問題、家庭問題等、自殺の背景・原因となる様々な要因のうち、失業、倒産、多重債務、長時間労働等の社会的要因については、制度、慣行の見直しや相談・支援体制の整備という社会的な取組によって、多くの自殺を防ぐことにつながります。  また、健康問題や家庭問題等、一見すると個人の問題と思われる要因であっても、医療や福祉、法律などの専門家への相談につながることによって、自殺を防げる場合もあります。 自殺は、その多くが社会的な取組を実施することで防ぐことができるとの基本認識を持って、自殺対策を進めることが重要です。 1−(1)−ウ、自殺を考えている人は何らかのサインを発していることが多い  死にたいと考えている人は、心のなかでは「生きたい」という気持ちとの間で激しく揺れ動いている場合も多く、不眠、原因不明の体調不良など自殺の危険を示すサインを発していることが多いと言われています。家族や友人、職場の同僚など身近な人やその人に関わるあらゆる人が、自殺のサインに気づき、寄り添って見守り、必要に応じて各種の相談や医療機関への受診を勧めることなどによって、自殺の予防につなげていくことが重要です。 1−(1)−エ、年間自殺者数はピーク時と比較すると減少しているが、非常事態は続いている  我が国の年間自殺者数は、平成10年に31,755人となり、その後も3万人前後で推移し、平成15年には32,109人となりました。その後、「自殺対策基本法」や「自殺総合対策大綱」の制定や改正を受け、自殺者数は平成22年以降、減少傾向に転じ、令和元年には年間自殺者数が19,425人にまで減少しました。しかし、令和2年には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等で、自殺の要因となり得る様々な問題が悪化しました。それにより、特に女性や小中高生の自殺者が増え、自殺者数が11年ぶりに増加傾向に転じ、前年と比較して818人増加の20,243人となりました。  本市においても、平成22 年の788 人から減少傾向となっており、平成30年には484人まで減少しました。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響もあり、令和4年には560人にまで増加しています。  このような状況の中、我が国の自殺死亡率は主要先進7か国の中で最も高く、年間自殺者数も依然として約2万人となっています。こうした状況を踏まえると、かけがえのない命が、自殺に追い込まれており、非常事態はいまだ続いているという認識のもとに取組を進めることが重要です。 【58ページ】 1−(2)施策体系 1−(2)−ア、基本理念  自殺の背景には、精神保健上の問題だけでなく、過労、生活困窮、育児や介護疲れ、いじめや孤独・孤立などの様々な社会的要因があることが知られています。しかし、いずれの場合においても、自殺は、追い込まれた末の死です。このため、自殺対策は、「対人支援のレベル」「地域連携のレベル」「社会制度のレベル」を連動させながら、社会における「生きることの阻害要因(自殺のリスク要因)」を減らし、「生きることの促進要因(自殺に対する保護要因)」を増やすことを通じて、総合的に推進することが大切です。  自殺対策の本質が、生きることの支援にあることを踏まえ、基本理念として「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を設定します。 1−(2)−イ、基本方針 基本理念の実現に向けて取組を進める上で、本計画では、以下の基本方針を定めます。 1−(2)−イ−(ア)本市の自殺(者)の特徴を踏まえた取組の推進  より効果的に対策を進めていくために、これまで進めてきた各種の取組を強化していくほか、本市の自殺者の特徴を踏まえた実践的な取組を、一層推進していきます。 1−(2)−イ−(イ)3つの対応段階と3つの階層を踏まえた取組の推進  本市の自殺の特徴に対してより有効な取組を講じていくため、国の自殺総合対策大綱にある「事前対応」「危機対応」「事後対応」の3段階での効果的な施策の展開の考え方を参考にしながら、本市の自殺実態や取組の効果などの分析を進め、対策に反映させていきます。  加えて、「対人支援のレベル」「地域連携のレベル」「社会制度のレベル」の3つの階層を、連動させて取り組んでいく考え方(三階層自殺対策連動モデル )を参考にしながら、施策を推進していきます。 1−(2)−イ−(ウ)体系的な施策の推進 施策体系は、適切な指標の設定とPDCAサイクルの精度を向上させるため、ロジック・モデルの考え方を参考にし、政策から施策レベルまでを体系化します。 また、関係部局の取組が自殺対策に繋がっていることを意識し、現計画において「関連施策」として整理されている関係部局の様々な取組を、「基本施策」に振り分けて整理し直します。 特に、「こども・若者を対象とした取組」、「女性への支援に関する取組」や「自殺未遂者の支援に関する取組」は、重点施策に位置づけることで、本市の課題を踏まえた自殺対策につなげます。 脚注:三階層自殺対策連動モデルは、厚生労働省「地域自殺対策計画策定・見直しの手引き」(令和5年6月)に基づいています。 【59ページ】 1−(2)−ウ、施策体系  精神保健福祉分野に限らず、教育、勤労、経済支援等、庁内関連部署の取組を有機的につなげ、総合的に自殺対策を推進するため、関連施策を「基本施策」及び「重点施策」に振り分けて整理します。  「基本施策」は、自殺の背景には様々な要因があることを踏まえ、全庁的に取組を推進するため、本市の自殺対策に資する施策として位置づけます。また、「重点施策」は、本市の自殺の特徴を踏まえ、基本施策の取組等から、対象者を明確にした具体的な施策として位置づけます。 図表3−2:施策体系を示しています。 【60ページ】 2、施策体系に沿った具体的な取組 2−(1)基本施策 2−(1)−ア、基本施策1:自殺対策に関する情報提供・理解促進 2−(1)−ア−(ア)施策の方向性  自殺に追い込まれるという危機は「誰にでも起こり得る危機」ですが、危機に直面した人の心情や背景が理解されにくい現実があり、そうした心情や背景への理解を深めることも含めて、困った時には誰かに援助を求めることが社会全体の共通認識となるように、積極的に普及啓発を行う必要があります。  自殺が身近な問題であることや、メンタルヘルスなどの様々な要因が重なりあって自殺につながっていく実態を知ってもらうことを目的に普及啓発を推進します。 2−(1)−ア−(イ)主な取組 取組1:自殺対策普及啓発 取組概要:悩みを抱えている人が必要な支援、相談窓口につながるよう、また自殺に関する正しい知識が普及するよう、多様な手段を用いて啓発を実施します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組2:心のサポーター養成事業 取組概要:メンタルヘルスや精神疾患への正しい知識と理解を持ち、心の不調に悩む人をサポートする「心のサポーター」を養成します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組3:人権啓発 取組概要:一人ひとりの市民が互いに人権を尊重しあい、ともに生きる社会を目指すために、性的少数者、犯罪被害者等、様々な人権課題に対する啓発を行います。 所管課:市民局人権課 【61ページ】 2−(1)−イ、基本施策2:生きることの包括的支援の推進 2−(1)−イ−(ア)施策の方向性  自殺の背景には、様々な要因が複合的に絡まり合っており、心理的・精神的に追い込まれた末に自殺に至ると言われています。 抱えている問題を深刻化させないため、自殺の要因となり得る精神的な不調や、生活困窮等の様々な悩みなどに対して、初期の段階で適切に対処し、その解決に努めることが重要です。こうした、不安や悩みに対しての専門的な相談対応が可能な支援機関等へ適切につながっていくことで、課題の解決に結びつくよう、相談支援の充実や各種の専門相談窓口の情報提供を進めます。 2−(1)−イ−(イ)主な取組 取組1:インターネットを活用した相談事業(相談) 取組概要:自殺に直接つながる可能性のあるキーワードの検索者に対する、インターネットツールを使用した相談対応を実施します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組2:生活困窮者自立支援制度 取組概要:生活にお困りのかたの課題の解決や生活の立て直しについて、関係機関等と連携し、包括的な相談支援を行います。 所管課:健康福祉局生活支援課 取組3:依存症対策事業(専門相談・回復プログラム・家族教室) 取組概要:アルコール、薬物、ギャンブル等の問題に悩む家族や当事者を対象とした、専門相談やプログラムを実施します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 【62ページ】 2−(1)−ウ、基本施策3:地域におけるネットワークの強化 2−(1)−ウ−(ア)施策の方向性  自殺対策の推進には、行政だけではなく民間で自殺対策などの取組を行っている団体や、地域で福祉的な支援や健康づくりなど様々な活動をされているかた、社員の健康問題に取り組む企業、報道機関など多岐にわたる関係者が、「誰も自殺に追い込まれることのない社会」を実現するために、それぞれの役割を明確化し、情報や意識の共有を図りながら、相互の連携や協力など、地域全体の取組として推進していくことが大変重要です。  このため、保健、医療、福祉、教育、労働、法律、その他の関連する分野で活動している関係機関の協働により、積極的に自殺対策に取り組む土台づくりを推進します。 2−(1)−ウ−(イ)主な取組 取組1:地域自殺対策推進センター事業 取組概要:自殺対策ネットワークを強化するため、地域自殺対策推進センターに専門職を配置し、自殺統計、人口動態統計、市民意識調査等の関係統計を解析し、関係機関や市民に提供するとともに、地域におけるネットワークづくり等の連絡調整を行います。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組2:横浜市自殺対策庁内連絡会議 取組概要:精神保健福祉分野に限らず、庁内関係部署が密接な連携と協力により、自殺対策の推進を図るための情報交換等を行います。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組3:よこはま自殺対策ネットワーク協議会 取組概要:民生委員などの市民代表や、自殺対策に取り組む支援団体と行政で、情報交換や関係機関の連携及び協力の推進、広報啓発活動を図ります。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 【63ページ】 2−(1)−エ、基本施策4:自殺対策を支える人材育成 2−(1)−エ−(ア)施策の方向性  様々な悩みや生活上の困難を抱える人に対しての早期の「気づき」が重要であり、そのための人材育成の方策を充実させる必要があります。具体的には、保健、医療、福祉、教育、その他の関係領域の部署、地域の支援者、身近な家族や友人、会社の同僚など、誰もが早期の気づきに対応できるよう、必要な研修の機会の確保を図ることが必要です。  このため、必要な研修や知識の普及等を強化します。また、市民・地域の支援者・関係機関従事者・専門的な支援者向けなど、対象者を明確にした人材育成策を体系的に設計していきます。  このような知識の普及、研修、人材育成を通じて、ゲートキーパーの養成を拡大・充実させていくとともに、自殺リスクの高いかたの相談を受け止め、必要な支援を提供できる関係機関につなげることのできる人材を増やすとともに、高度な専門的支援を行える人材の育成を進め、地域全体で自殺対策の担い手の資質や能力の向上を図ります。 2−(1)−エ−(イ)主な取組 取組1:ゲートキーパー養成研修 取組概要:家族や友人、同僚等の身近な人や地域の支援者等、様々な分野におけるゲートキーパーを養成します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組2:こころといのちの地域医療支援事業 取組概要:主に身体科の医師を対象に、うつ病等が疑われる患者の対応や精神科との連携が促進されるよう連携先一覧を作成し、研修を実施します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組3:精神保健福祉研修 取組概要:精神保健福祉関係機関の職員を対象に、相談対応技術、相談支援、受診受療援助力の向上を目的に精神医学の知識等を学ぶ研修を実施します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 【64ページ】 2−(1)−オ、基本施策5:遺された人等への支援 2−(1)−オ−(ア)施策の方向性  自殺で身近な人や大切な人をなくした自死遺族は、深い悲しみや自責の念、死別によりわき起こる苦悩や葛藤を抱えるかたが多くいます。また、周囲からの偏見のため、自死遺族が自らの思いを長く心の中に閉じ込めざるを得ない状況もあります。  「横浜市人権施策基本指針」の中でも、自殺に関わる大切な施策の一つとして「自死遺族」の課題を取り上げています。その中では、深い悲しみと自責の中にいる遺族にとって、心ない声かけに傷ついたり、遺族自らが、身近な人や大切な人が自殺でなくなったことを話すことができる環境づくりを目指し、支援体制の充実を図るなど総合的な施策展開を進めることを掲げています。  自死遺族など遺されたかたへの支援としては、自殺への偏見による遺族の孤立防止や心を支える活動と同時に、相続や行政手続き等、個々の状況や時期に応じた適切な情報の提供が重要です。  そのため、遺族のかたが集える場の設置や、その時々に必要な情報へつながっていけるための情報提供方法等の検討を進めます。 2−(1)−オ−(イ)主な取組 取組1:自死遺族の集い「そよ風」 取組概要:自死で身近な人や大切な人をなくされたかたを対象とした、思いを語り合い分かち合う集い及び、遺族が経験するこころとからだの変化についての講座を開催します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組名:自死遺族ホットライン 取組概要:自死で身近な人や大切な人をなくされたかたを対象とした、専門相談員による傾聴を中心とした電話相談を行います。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組2:手続ガイド(お悔やみ)・お悔やみハンドブック 取組概要:自死遺族を含む遺族等が行うお悔やみ手続について、個別に必要な手続や持ち物を抽出してご案内するウェブサービスを実施します。また、遺族等が行う手続をハンドブックにまとめ、各区のウェブページに掲載します。 所管課:市民局窓口サービス課 【65ページ】 2−(2)重点施策 2−(2)−ア、重点施策1:こども・若者の自殺対策の強化 2−(2)−ア−(ア)施策の方向性  自殺統計によると、学生・生徒等の自殺者数は、令和4年では27人と、近年最も少なかった平成30年の15人と比較して約2倍となっていました。また、人口動態統計によると、近年、30歳代以下の自殺死亡率の増加が顕著にみられました。  また、こころの健康に関する市民意識調査からは、女性も男性も年齢が低いほどK6の点数が高い傾向があり、また希死念慮を持つ人の割合についても同様の傾向であることが明らかになりました。  さらに、消防局救急活動データからは、若年層(特に20歳代)の自損行為が男女問わず増加しており、若年層対策の重要性が救急活動データからもうかがえました。 こうした状況を踏まえ、若年層の悩みの解決に向けた相談体制の充実とともに、学校や家庭、地域におけるこどものSOS や悩みを受け止める取組の推進が必要です。 2−(2)−ア−(イ)主な取組 取組1:ゲートキーパー養成研修(こども・若者分野) 取組概要:こども・若者のSOSを察知し、適切な支援につなげることができるよう、小・中・高・専門学校・大学の教職員等を対象に、自殺対策に関する研修を行います。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組2:SOSサインの出しかた・受けかた・つなぎかた教育 取組概要:横浜市独自の、子どもの社会的スキル横浜プログラム(Y-P)を活用し、SOSのサインを発したり、自分で解決していくためのスキルの獲得に向けた教育を行います。 所管課:教育委員会事務局人権教育・児童生徒課 取組3:児童虐待防止対策事業 取組概要:児童虐待に係る相談体制の充実、相談支援機能の強化等に取り組み、児童虐待の発生予防から早期発見・早期対応に取り組みます。 所管課:こども青少年局こどもの権利擁護課 取組4:若者相談支援スキルアップ研修〜メンタルヘルスコース〜 取組概要:地域支援機関の職員を対象に若者のメンタルヘルスに関する専門研修を実施します。 所管課:こども青少年局青少年相談センター 【66ページ】 2−(2)−イ、重点施策2:女性に対する支援の強化 2−(2)−イ−(ア)施策の方向性  人口動態統計によると、女性の自殺者数・自殺死亡率は令和元年以降増加傾向にあり、令和3年時点で自殺者数201人、自殺死亡率10.5でした。自殺者数のピーク時と比較すると、男性の自殺死亡率は10ポイント以上減少しているのに比べ、女性の自殺死亡率で3.5ポイントと、減少幅が小さい状況でした。  自殺統計において自殺者の職業を見ると、20歳代以上の女性においては「無職者」が最も多くなっており、特に20歳未満、60歳代の無職者で、近年、自殺者数が増加していました。加えて、女性の20歳代・50歳代の有職者も、近年、自殺者数が増加していました。また、自殺者における自殺未遂歴がある者の割合は、女性では概ね3割前後となっており、男性と比べ多い状況でした。  こころの健康に関する市民意識調査からは、過去1年以内に自殺したいと思ったことがある女性が若年層ほど多くなっていました。また、相談することに対する態度・意識として、若年層ほど「誰かに相談したいと思う」一方で、「相談することは恥ずかしいことだと思う」、「自分ひとりで解決するべきだと思う」といったように、相談することに対する葛藤を抱えている可能性が示唆されていました。  これらのことから、女性の自殺者数は男性よりも低い水準にあるものの、近年の自殺者数の増加や、希死念慮や自殺企図経験等の割合がいずれも男性よりも高い状況を踏まえた対策の重要性がうかがえます。  こうした状況を踏まえ、ライフイベントやライフステージに応じた女性の悩みや生きづらさを受け止め、解決に向けて多様な機関で連携して支援を行うために、相談体制の充実を図ることが必要です。特に、新型コロナウイルス感染症の影響による雇用問題や孤立・孤独の不安の増大、配偶者からの暴力等に対する支援体制の充実を図ることが必要です。 2−(2)−イ−(イ)主な取組 取組1:インターネットを活用した相談事業(相談先表示) 取組概要:女性特有の悩みや生きづらさについて、インターネットで検索したかたへ、適切な相談窓口を案内するメッセージを表示して、情報提供します。 関係課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組2:にんしんSOSヨコハマ(妊娠出産相談事業) 取組概要:思いがけない妊娠や出産、子育てに悩むかたが、孤立することなく気軽に相談支援を受けられるよう、電話やメール、LINEで相談を実施します。 関係課:こども青少年局地域子育て支援課 取組3:女性としごと応援デスク 取組概要:キャリアコンサルタントによる就職支援や、働きかた、労働条件・職場のハラスメント等の相談の実施、セミナー開催など、ライフプランに合わせたサポートを行います。 関係課:政策局男女共同参画推進課 取組4:横浜市DV相談支援センター 取組概要:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に基づき、配偶者等からの暴力の相談を受け、助言や情報提供を行います。 関係課:こども青少年局こどもの権利擁護課 【67ページ】 2−(2)−ウ、重点施策3:自殺未遂者への支援の強化  自殺統計によると、自殺未遂歴がある自殺者数の割合は、女性では概ね3割前後、男性では概ね1〜2割程度で推移していました。そのうち1年以内に自殺未遂歴がある人は、女性では約6割、男性では約5割となっていました。  また、こころの健康に関する市民意識調査によると、悩みやストレスを「自分ひとりで解決すべきだと思う」人ほど、自殺未遂の経験が複数回あると回答した割合が高くなっていました。  加えて、消防局救急活動データからは、若年層(特に20歳代)の自損行為が男女問わず増加していました。また、自殺未遂をしたものの不取扱になり救急医療機関等につながらなかったかたにおいては、既往症として精神疾患を有している場合が比較的多く、自殺未遂者支援における精神科医療機関等との連携の重要性が確認されました。特に女性においては、救急活動を「拒否・辞退」した結果、不取扱となり、救急医療機関等につながらなかった場合が多くなっており、自殺未遂者を必要な支援につなげる取組が重要であることが確認されました。  こうした点を踏まえ、自殺未遂者の状況把握を進めながら、救急医療機関に搬送された自殺未遂者への支援に医療機関と連携して取り組むとともに、救急医療機関へ搬送されなかった自殺未遂者をケアにつなげるために様々な関係機関と連携して方策を検討し、効果的に自殺未遂者への支援を強化していくことが必要です。そのため、リスクアセスメントツールや相談機関一覧を作成し、救急医療機関等に配布することで、再度の自殺企図の防止のための取組を推進するとともに、医療従事者等を対象とした研修を整備し、医療機関の連携を推進していきます。 2−(2)−ウ−(ア)主な取組 取組1:自殺未遂者支援に関する研修 取組概要:医療従事者等の自殺未遂者に関わる支援者を対象に、自殺リスクの適切な評価を行い、再度の自殺未遂の防止につなげるための研修を行います。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組2:自殺未遂者支援に関する手引き等の作成 取組概要:自殺リスクの評価ができるシートや、生活上の困りごと等への対応窓口についての情報提供ができる手引き等を作成し、医療機関等へ配布します。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組3:自殺未遂者フォローアップ事業 取組概要:二次救急医療機関に搬送された自殺未遂者に対してのケースマネジメントによる支援及び定期的なフォローアップ支援を行います。 所管課:健康福祉局こころの健康相談センター 取組4:精神科救急医療対策事業 取組概要:精神症状の悪化などで早急に適切な精神科医療を必要とする患者等の相談に応じる他、法に基づく診察の実施や医療機関の紹介を行います。 所管課:健康福祉局精神保健福祉課 【68ページ】 3、数値目標等 3−(1)目標設定の考え方  PDCAサイクルの実効性を高めるため、本計画においては、ロジック・モデルの考え方を基に、施策を検討しました。ロジック・モデルとは、組織や事業が将来的に目指す長期的な成果を設定した際に、その達成のために必要な道筋を体系的に図式化したものです。  本計画では、国の自殺総合対策大綱の基本理念である、「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を基本理念として掲げるとともに、最終目標にも設定し、最終目標を達成するために、5つの基本施策と3つの重点施策を推進します。 【69ページ】  図表3−3:体系図を示しています。 重点施策1:こども・若者の自殺対策の強化として、若年層の悩みの解決に向けた相談体制の充実とともに、学校や家庭、地域におけるこどものSOS や悩みを受け止める取組を推進します。 重点施策2:女性に対する支援の強化として、ライフステージに応じた女性の悩みや生きづらさを受け止め、解決に向けて多様な機関で連携して支援を行うための相談体制の充実に取り組みます。  重点施策3:自殺未遂者への支援の強化として、医療機関と連携し、救急医療機関に搬送された自殺未遂者への支援とともに、救急医療機関へ搬送されなかった自殺未遂者をケアにつなげるための方策を検討します。 基本施策1:自殺対策に関する情報提供・理解促進として、困った時には誰かに援助を求めることが、社会全体の共通認識となること、また自殺が身近な問題であり、様々な要因が重なりあって自殺につながっていく実態を知ってもらうことを目的とした普及啓発を推進します。  基本施策2:生きることの包括的支援の推進として、不安や悩みに対する専門的な相談対応が可能な支援機関等へ適切につなげ、課題の解決に結びつくよう、相談支援の充実や各種専門相談窓口の情報提供を推進します。  基本施策3:地域におけるネットワークの強化として、連携会議等を活用し、多岐にわたる関係者が、「誰も自殺に追い込まれることのない社会」の認識の共有と、実現に向けて情報や意識の共有を図りながら、相互の連携や協力体制を構築し、地域全体の取組として推進します。  基本施策4:自殺対策を支える人材育成として、知識の普及、研修、人材育成を通じて、ゲートキーパーの養成を拡大・充実させていくとともに、必要な支援を提供できる関係機関につなげることができる人材を増やします。  基本施策5:遺された人等への支援として、自殺への偏見による遺族の孤立を防ぐ取組や、遺族が必要とする情報提供のほか、遺族同士が悲しみを分かち合う場の提供等の支援の充実に取り組みます。  重点施策1〜3については、基本施策1〜5の取組のうち、本市の自殺の特徴や課題に合わせて「こども・若者」、「女性」、「自殺未遂者」に特化した取組・事業を抽出しています。 重点施策1〜3及び基本施策1〜5の取組を推進することにより、「当事者(自死遺族含む)が、必要な支援を受けられている・相談することができている」「自殺対策が社会全体の取組として認識され推進されている」「多くの人が支援者となり、活躍している」ことを目指いします。ひいては、3つの中間目標である「必要な支援につながっている人の増加」「自殺に関する正しい意識を持つ人の増加」「支援をしている人・団体の増加」の達成につなげ、「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指します。 【70ページ】 3−(2)評価指標  本計画では、最終目標と中間目標について評価指標を設定することにより、PDCAサイクルを回してより効果的な事業の実施につなげていきます。評価指標は、定量的に把握できるものを中心に設定するほか、具体的な行動を把握するための定性的な評価指標も設定します。 3−(2)−ア、最終目標  「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」に向け、「@自殺する人を減らす」だけでなく、「A自殺に追い込まれる人を減らす」ことが重要と考えます。上記2点の視点を踏まえ、最終目標の指標も、@を評価するものとして「自殺死亡率の減少」、Aを評価するものとして「自殺したいと思ったことがある人の減少」と「自殺未遂の経験がある人の減少」の3つの指標を設定します。  自殺死亡率の減少については、自殺総合対策大綱において、当面の目標として、令和8年までに、自殺死亡率を平成27年と比べて30%以上減少させることとしています。  本市においても、国における目標を踏まえ、令和8年までに、平成27年の自殺死亡率15.4と比べて30%以上減少させること、つまり自殺死亡率10.8以下を当面の目標とします。直近の現状値(令和5年度)は14.8(令和4年人口動態統計概数)となっています。なお、目標を達成できた場合、国の大綱を踏まえ、見直しを検討します。  「自殺したいと思ったことがある人の減少」については、自殺したいと思うこと自体や、それを表現することを否定するものでは決してありません。むしろ、相談体制の充実や、相談できる身近な人が増えることにより、「自殺したい」という思いを打ち明けやすい社会環境の整備が進むことが期待されます。この指標は、事前の予防や早期対応等により、「自殺したい」という思いにまで追い込まれることがないよう、各種の施策を推進することを目指したものです。具体的な目標値として、「自殺したいと思ったことがある人の減少」については、令和9年度のこころの健康に関する市民意識調査において24.7%以下を目指します。また、「自殺未遂の経験がある人の減少」については、令和9年度のこころの健康に関する市民意識調査において28.2%以下を目指します。 【71ページ】 3−(2)−イ、中間目標  本計画では、3つの中間目標を設定します。  中間目標1として「当事者(自死遺族含む)が、必要な支援を受けられている・相談することができている」と設定し、相談支援の充実により現に支援につながっている人を増加させ、自殺未遂の経験がある人の減少につなげます。評価指標としては、「悩みやストレスについて誰にも相談できない人の割合が減少」、「身近な人の死を経験し『人に話せず、悲しみを分かち合えなかった』、『必要な情報が届かなかった』の回答割合の低下」、「孤独感の減弱(UCLA孤独感尺度)」の3指標を設定します。具体的な目標値として、「悩みやストレスについて誰にも相談できない人の割合が減少」については、令和9年度のこころの健康に関する市民意識調査において5.5%以下を目指します。「身近な人の死を経験し『人に話せず、悲しみを分かち合えなかった』、『必要な情報が届かなかった』の回答割合の低下」については、自死遺族の集い参加者アンケート等による評価を検討します。「孤独感の減弱(UCLA孤独感尺度)」については、令和9年度のこころの健康に関する市民意識調査において8.5%以下を目指します。 中間目標2として「自殺対策が社会全体の取組として認識され推進されている」と設定し、必要としたときに誰もが助けを求めやすい環境を整備することで、自殺企図の防止につなげます。評価指標としては、「『自殺は防ぐことのできる社会的な問題である』などの正しい認識の浸透」及び「ネットワーク協議会や庁内連絡会議において、自殺の状況が共有され、連携した取組が推進されている」の2指標を設定します。具体的な目標値として、「『自殺は防ぐことのできる社会的な問題である』などの正しい認識の浸透」については、令和9年度のこころの健康に関する市民意識調査において53.8%以上を目指します。「ネットワーク協議会や庁内連絡会議において、自殺の状況が共有され、連携した取組が推進されている」については、定性的に評価します。  中間目標3として「多くの人が支援者となり、活躍している」と設定し、より多くの人が支援者となることで悩みを抱える当事者のセーフティネットとなる場・機会を広げていきます。評価指標としては、「ゲートキーパー養成が進んでいる」及び「ゲートキーパーの役割を発揮している人が増えている」の2指標を設定します。具体的な目標値として、「ゲートキーパー養成が進んでいる」については、令和10年度までにゲートキーパー研修等受講者数が36,000人に達成することを目指します。「ゲートキーパーの役割を発揮している人が増えている」については、今後、目標値を検討します。  以上を踏まえ、最終目標である「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を図ります。 脚注:ゲートキーパーの養成人数は令和元年度からの累計値です。