第4章 障害のある人を地域で支える基盤の整備 1 本章の位置づけ  第3章では、様々な事業を「障害児・者が日常生活を送るうえでの視点に立った枠組み」に沿って取り上げました。  一方で、複合的で多面的な地域課題が表面化する中で、障害のある人を支えていくには、個々の事業による支援だけでは十分とは言えません。地域社会の中で、行政や関係機関、地域住民など多くの担い手が対話・協議を行い、様々な事業・施策・取組が連携することで、地域で支える基盤を整備・強化していくことが重要です。  第4章では、障害者の生活を地域で支えるための基盤として、「地域生活支援拠点機能」と、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」について、将来像とそれに向けた取組を取り上げます。 2 国の動向  国は、平成28年に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」において、「全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる『地域共生社会』を実現する」と打ち出しました。その中で、「支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、福祉などの地域の公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる仕組みを構築する」としています。  社会全体のありようとしての「地域共生社会」を実現する仕組みとして、高齢者福祉の分野では「地域包括ケアシステム」が導入されています。「地域包括ケアシステム」は、高齢者のケアとして必要な支援を地域で包括的に提供し地域での自立した生活を支援するもので、障害者やこどもの支援にも応用できると考えられています。そこで、平成28年度に、精神障害者の一層の地域移行を進めるための地域づくりを推進する視点から、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を目指すことが新たな理念とされました。  一方、障害者の重度化・高齢化や「親亡き後」を見据え、障害児者の生活を地域全体で包括的に支える体制が必要とされてきたことから、平成27年度に国は地域生活支援拠点等整備推進モデル事業を立ち上げ、「地域生活支援拠点機能の整備」を進めてきました。「地域生活支援拠点」は、地域に存在する社会資源を有機的に結びつけ効率的・効果的な地域生活支援体制を構築することにより、障害者の生活を地域全体で支えていこうというものです。 3 横浜市の取組  「地域生活支援拠点機能」の整備は、まったく新しい何かをつくるものではありません。これまで、横浜市は、障害のある人もない人も含め、支援者の方々、事業所のみなさん、地域の方々と協力しながら、地域活動ホームや基幹相談支援センター、自立支援協議会などをはじめとする様々な社会資源を整備・推進してきました。こういった既存の社会資源を有機的につないでいくネットワーク型の手法により、「地域生活支援拠点機能」の整備を進めてきています。  また、精神障害特有の生活のしづらさについて、地域における関係者・関係機関が共通の認識を持ち、これまでのつながりの中での機能の見直しや、制度に基づかない支援も含めたつながり同士の結びつきにより、地域の特性をふまえた多くの課題に対応できるよう、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築に取り組んできました。  次から、具体的な「将来像」と「取組」として、「地域生活支援拠点機能」の整備において取り組む5つの居住支援機能と、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の6つの仕組みを説明します。 (1)地域生活支援拠点機能 ●機能1 相談 【将来像】  必要な人すべてが相談支援事業所につながっていて、緊急時に必要な情報を関係者・関係機関が適切に共有するなどの取組が展開されています。  また、地域での障害理解が進み、横浜市後見的支援制度など既存の社会資源を活用した緩やかな見守りが機能しています。 【取組】  各区自立支援協議会、研修、集団指導などの様々な場を活用し、相談支援機関に対し、緊急時のリスク把握や事前の備えの必要性と、各機関が地域生活支援拠点の担い手であるという認識を持てるよう働きかけます。  相談支援機関や障害のある人ご本人に対し、あらかじめ緊急事態を想定し、その予防とスムーズな対応を計画する「緊急時予防・対応プラン」の作成などを促し、それらを3機関で共有することにより、緊急時の支援が見込めない世帯を把握します。  また、緊急事態が発生しないための予防策や、緊急事態を想定した支援体制を整えるため、相談支援機関同士の情報提供方法や考え方を整理し、共有します。 ●機能2 緊急時の受入れ・対応 【将来像】  短期入所事業所も含め、それぞれの施設の特性に応じた役割分担のもとで、レスパイトや計画的な利用だけではなく、緊急時の利用にも対応できる状態になっています。また、横浜市の拠点施設である18か所の社会福祉法人型障害者地域活動ホーム及び23か所の機能強化型障害者地域活動ホーム並びに6か所の多機能型拠点において、相互連携のもと、他に受入れ先がない方の利用が促進され、緊急時の受入れにも対応できています。 【取組】  各事業所に対して、地域生活支援拠点の担い手との認識のもと、短期入所事業所の施設種別(入所、通所、病院、診療所等)や、障害者地域活動ホームや多機能型拠点など施設の設置目的に応じた役割を整理し、理解促進及び協力体制の充実を図ります。  また、医療的ケアが必要な人や重症心身障害児・者、強度行動障害がある人などの受入れ促進、拠点的施設等の定期的な評価及び改善(PDCAサイクル)を通じた支援の充実を図っていきます。 ●機能3 体験の機会・場の提供 【将来像】  区自立支援協議会を中心に構築されたネットワークが強固になり、一人ひとりのニーズに合わせた「体験の機会・場」の提供が行われています。また、基幹相談支援センターではグループホームや日中活動系サービス事業所などの「体験の機会・場」の情報が随時更新され、入手・活用できる状態です。  さらに、障害のある人が、暮らしの場や過ごし方の体験をすることで様々な選択肢の中から自身で選べるようになり、一人暮らしを希望する人も暮らしたい地域で自分らしい生活を実現できます。 【取組】  事業所情報が基幹相談支援センターへ適時集約される働きかけと、情報提供を行うための手法を整理・検討します。相談支援機関や基幹相談支援センターでの相談内容等を活用して把握したニーズを踏まえ、様々な住まいの場の拡充と、体験の機会・場を提供しやすくする仕組みを検討します。居住支援協議会を通じて、不動産事業者及び賃貸住宅のオーナー等に、障害理解を促進する研修、サポート体制の構築、入居を拒まない住宅の戸数増への働きかけ等を実施します。宿泊型自立訓練など、生活環境を変える意味での他の社会資源の活用・開発を検討します。 ●機能4 専門的人材の確保・育成 【将来像】  区域では、区自立支援協議会での取組により、人材育成、サービス水準の向上・標準化ができています。また、市域、区域における人材育成の取組を効果的に連動させることにより、発達障害、行動障害、高次脳機能障害、医療的ケア等、様々な分野において専門性の高い支援ができる人材が育成できています。 【取組】  区域と市域の研修が効果的に連動するよう、体系的な整理を行うとともに、区域での人材育成を担える人材を市域で育成し、区自立支援協議会が人材育成の場としてさらに機能するよう取り組みます。  また、研修に参加できない人に対する人材育成手法や、二次相談支援機関のコンサルテーション機能の拡充および効果的な運用方法などを検討します。 ●機能5 地域の体制づくり 【将来像】  区障害者自立支援協議会、ブロック連絡会、市自立支援協議会の取組が連携・連動し、分野を超えた多様な社会資源が協力することで、障害のある人を地域全体で支える具体的な取組を展開しています。 【取組】  日ごろの見守りの担い手になる地域住民を含め、障害のある人が地域で安心して暮らすために、それぞれの立場でできることを具体的に伝えることで、障害分野  を超えた多様な方々に協力してもらえる関係づくりを進めます。  また、区域での取組や把握された地域課題を全市で共有できる体制を整えていきます。 (2)精神障害にも対応した地域包括ケアシステム ●仕組み1 本人や家族が安心して相談できるための仕組み 【将来像】   日常生活での困りごとや障害により苦しんでいる場合に、どこに相談したらよいのか、わかりやすく情報を受け取ることができます。  また相談したことが関係者・関係機関に適切に共有され、普段の生活から一緒に考えていくことで、もしもの事態を視野に入れた支援が受けられます。 【取組】  緊急時のリスクを含めたニーズを把握・共有し、適切に情報提供できるよう、関係者・関係機関それぞれが地域包括ケアシステムの担い手となるような働きかけを行います。  特に、未治療や治療を中断したことで苦しんでいる方やその家族をふくめ、緊急的な医療を確保するための対応(精神科救急等)だけではなく、本人が望まない入院や緊急事態にならないよう、地域定着支援事業や自立生活援助、自立生活アシスタントなどを活用した訪問活動など普段からの支援が途切れることなく提供できる体制づくりを行います。 ●仕組み2 入院が長期化することなく、安心して退院できるための仕組み 【将来像】  病気により入院となった場合でも、病気そのものや退院への不安に対するサポートが受けられます。  また、病気の治療が終われば、その人自身が望む地域に退院し、生活するうえで必要な支援を受けられます。 【取組】  病気により入院(再入院)となった場合でも、地域移行・地域定着支援事業や退院サポート事業を活用しつつ、医療機関、訪問看護、ピアサポート等と連携し、支援体制をつくっていきます。 ●仕組み3 安心した生活を確保するための仕組み 【将来像】  希望する地域で様々な暮らしの場を自分自身で選択できます。アパートなどを希望した時も、障害を理由に断られることなく、家事や手続きなど日常生活の困りごとについても必要な時にサポートが受けられる体制ができています。 【取組】   これまでの社会資源の効果的な活用や拡充、事業所情報の収集・提供の働きかけや手法を検討します。特に引っ越しや退院などの環境変化に伴う手続きや家事、体調変化などの不安に対する継続的なサポートや、日々の困りごとを解決していくためのサポート体制を築いていきます。  また、居住支援協議会を通じて、不動産事業者及び賃貸住宅のオーナー等に対し、サポート体制の構築、障害理解を促進する研修、入居を拒まない住宅の戸数増への働きかけを進めます。 ●仕組み4 支援者の知識や技術向上のための仕組み 【将来像】  精神保健福祉と他の様々な分野の支援者が、個別支援だけの関わりだけではなく、  お互いの知識・技術・情報の共有ができています。 【取組】  区域と市域の研修が効果的に連動するよう体系的な整理を行うとともに、精神保健福祉分野のみならず身体障害・知的障害との重複や高齢、生活困窮をはじめとした多くの分野と精神科医療機関との情報および技術交流の機会を整えていきます。 ●仕組み5 住民への障害理解に関する仕組み 【将来像】  地域における、ゆるやかな見守りの担い手となる住民が精神障害者の生活のしづらさを理解し、困った時には一緒に協力したり、支援者と相談したりできるような関係が築けています。 【取組】  研修や講演会その他の地域活動等を通じて、それぞれの立場でできることを具体的に伝えることで、精神障害者の生活のしづらさを理解し、様々な方々から協力を受けられる関係づくりを進めます。 ●仕組み6 お互いに支えあえる仕組み 【将来像】  精神障害によって悩み苦しんできた経験を、いま苦しんでいる仲間や家族、支援  者に分かち合うことで、支援の「支え手」や「受け手」という枠を超えて、ともに  支えあっていけるような体制ができています。 【取組】  関係機関から本人への支援だけでなく、同じ経験や立場をもつ人同士が互いに精神的な支えとなれるような場や機会を整えていきます。 4 今後の方向性  これまで横浜市では、国の動向に沿って、「地域生活支援拠点機能」の整備と「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を個別に検討してきました。しかし、どちらの仕組みも、「地域共生社会」の実現に向けた地域づくりという面では同じです。  今後、具体的な課題や必要とされる事業・取組等が明確になってきた段階を見計らい、一体的な議論を行うことによる相乗効果で、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の取組の推進と「地域生活支援拠点機能」の充実・強化を進めていきます。「第4期横浜市障害者プラン」の基本目標である「障害のある人も無い人も、相互に人格と個性を尊重し合いながら、地域共生社会の一員として、自らの意思により自分らしく生きることができるまちヨコハマを目指す」の実現に向けた非常に重要な取組であり、様々な社会資源の担い手との連携・協働と地域とのつながりを深めながら推進していきます。 ※「横浜市地域生活支援拠点機能構築のための連携ガイドライン」から抜粋したものですが、おおまかな構造は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」も同様と考えられます。